マッチングアプリで損した話④緊張の初デート
前回のお話はこちら↓
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初デートは上野。
某チェーン店でオムライスを食べることになった。
「オムライス好きですか?」なんて聞かれた時はあまりの無邪気な字面に笑ってしまった。
上野駅は広くて過去に迷ったことがあるので早めに家を出た。
家を出る間際に服装の写真を送ると、ちあき君からは服装を褒めちぎるLINEが返ってきた。相変わらずの愛情ストレートパンチ。
お店の前には5分ほど前に着いた。
あぁ、この瞬間が緊張する。どこか明後日の方向を見つめていた方がいいかな、それともキョロキョロしていた方が印象がいいかな、などとちっぽけな戦略会議を脳内で繰り広げながらちあき君の到着を待った。
ほどなくして電話がかかってきた。私たちはこれまでに一度も通話をしてこなかったので、彼の声を聞くのは初めてだ。
「もう近くまで来てると思うんだけど、駅広くてさー。」
想像よりも少し高い声を噛みしめるように聴く。緊張でろくな相槌も打てなくて情けない。
「あ、あれかな。」
彼のその声に導かれるように足元から正面へ視線を移す。
あ、写真と一緒だ。
最初に感じたのは安堵だった。何度も見返した7枚の写真と同じ顔をした男の人が目の前に立っていた。
「待たせてごめんね。」
そう言う彼はニコニコしていて、でもちょっと緊張しているのが伝わってきた。目が合ったのはその時までで、それからはずっと目が合わなかった。
お店の前には2組ほど椅子に腰掛けて待つ人がいて、私たちもその列に加わろうとしたのだが、その時、ちあき君がガタタッと崩れ落ちた。踏み外したというか、座り外したというか、椅子に座ろうとしてコケてしまったのだ。
「大丈夫!?」
びっくりしながら手を差し出すと、彼は「恥ずかしい、恥ずかしい」と終始てんやわんや。それも無理はない。私も同じ状況になったら顔から火が出るだろう。
ちあき君には悪いが、私はそんな彼の姿を見て緊張が吹き飛んだ。自分より緊張している人が目の前にいると、不思議とこちらは冷静になれる。
なんだか彼がたまらなく可愛く見えてきた。
***
入店して、二人とも王道のケチャップオムライスを注文。
料理がくるのを待つ間にもちあき君はずっと喋ってくれていたが、一度も目が合わなかった。
結局まるで修行僧のように、到着したオムライスを割と早いスピードで平げ、食後のおしゃべりもほどほどにすぐお店を出た。
ちなみにお会計はプロフィール記載の通り割り勘だった。
その後は上野公園に移動して、スタバを飲みながら散歩をすることになった。私は散歩が好きなのでこういったデートは嬉しい。ちあき君も散歩好きだとは言っていたけれど、本音なのかは分からない。
相変わらず目が合わないところや、私と同じものを注文するところが可愛くて、私の口角は上がりっぱなしだ。
スタバで温かいドリンクを手に入れて、歩き出した時だった。
「聞きたい事あるんだけど…人が…」
ちあき君がそう言って近くの家族連れに視線を向ける。人がいるところでは話しにくいらしい。
そんなに近くないけどな、と思いつつ、その気持ちは共感ができた。私もさっきのレストランでは隣の席が気になって話しづらかった。
マッチングアプリでの初回デートは、周囲の関心を引きやすいので敏感になってしまう。
それにしても聞きたいことってなんだろう。そんな風に言われると身構えてしまう。
ちあき君が聞きにくい話題だと言うから不安感に耐えきれず、私は自分から開示することにした。
「なんだろう。借金はありません!ギャンブルもやらないし。実は結婚してるとかもないです!宗教は無宗教です!親の介護も当面は心配なさそうだし…あと何があるかな?」
明るくそう言うと、ちあき君は笑って少し緊張が和らいだような素振りを見せた。
「いや、そういうんじゃなくて。でもそれも大事だね。」
自分のことばでちあき君が笑ってくれるのが嬉しくて、今日会えて良かったと強く感じた。
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