マッチングアプリで損した話②ダメ男役満
前回のお話はこちら
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マッチングアプリは仮名を使っている人も多い。しかし、出会いを前提としているため、イニシャルや本名にちなんだ普遍的な名前を設定することがほとんどだ。私も本名の頭文字を名乗っていた。
だからチキン南蛮と名乗る彼からの通知には一瞬ギョッとしてしまった。なんだか真剣度が感じられなくて、「気を引かれる」というよりは「悪目立ちする」かんじだった。
通知を受け取ってから、まずはプロフィールを一読する。
マッチングアプリのプロフィールというのは写真、プロフィール文、スペック欄の3点セットのこと。
チキン南蛮さんのプロフィールはとても充実していた。まずは写真。設定上限数の10枚きっちりと設定してあり、うち7つは顔がはっきりと分かる写真。あとの3つが風景や食べ物の写真であった。
顔写真はそれぞれ写りにばらつきがあって、写真によって顔立ちの印象も少し異なった。しかしそれゆえに彼の顔が再現度高く想像できた。
プロフィール文は丁寧に、知りたい情報がしっかりと書かれてあった。
住んでる場所とアプリを始めた理由から語り始め、ちょっと訳ありな仕事についての説明も丁寧にされていた。
趣味は複数あるようで、それらを項目立ててそれぞれにコメントが付け加えられている。
要所要所に彼の素直さや優しさが滲む文章だった。
これまでに私が見てきた男性の文章は、アレンジがあまりにも足りない読み飽きたテンプレートや誤字脱字ばかりのいい加減なもの、根本的に「量」が足りない省エネ文章ばかりだったため、彼の文章はみずみずしく感じた。
しかし、すぐに彼のいいねを受け入れようとは思えなかった。
それは、彼のスペック欄に気にかかる項目が多くあったからだ。
スペック欄というのは年齢や血液型などの基本情報に始まり、兄弟構成や年収、学歴、結婚や子育てに対する意思から喫煙飲酒の有無まで、事細かにパーソナルな情報を開示する部分である。
年収や兄弟構成まで記載するのは生々しくも感じるが、本気で結婚を考えてる人にとってはどれも重要な情報だ。
チキン南蛮さんのスペックは、とにかく正直だった。
フリーター!!!実家暮らし!!!割り勘!!!
ダメ男の役満である。
正直なのはいいことだが、こんなにあけすけでは彼とマッチングする女性は少ないだろう。
特に初回のデート費用を割り勘にしている人は初めて見た。大抵の人は「男性が多く払う」もしくは「相手と相談して決める」になっている。この、「相手と相談して決める」が実質の割り勘である。(もしくは会ってみてアリかナシかの判断によって決めるつもりなのかもしれない。)
まぁでも、「男性が多く払う」にしてるのに割り勘だった人もいたしなぁ…なんて謎のフォローが胸中で入る。
それより私が気になったのは実家暮らしであることと、定職に就いていないことだった。
私はどうにも実家暮らしの方に好意的になれない。介護等の事情があっての同居は除くが、基本的には一人暮らしを経て家事や家計管理の苦労を経験している人を望む。(実家暮らしの方ごめんなさい。個人の好みなので許してほしい…)
そしてフリーターというのは私でなくても引っかかる人が多いだろう。ちなみにチキン南蛮さんは私の2歳年下の24歳だ。
彼のプロフィールには、目指している職があり、その資格取得のために今は勉強中心の生活をしているとのこと。
ううん…、それは仕事しながらでは出来ない事なのだろうか?そもそも口ではなんとでも言えるからどこまでが本当のことか分からないな…
次々と疑問や不安が沸いてくる。
結局、私は彼とのマッチングを保留にしたまま数日を過ごした。
すぐにマッチングすることができない代わりに、却下することもしなかった。
そして数日のブランクを経て、とうとう私は彼にいいねを返してマッチング状態となった。
「別にチャットするくらいならいいかな」とか、「やっぱり嫌だったら会わなきゃいいだけだし」とか一人で御託を並べたが、本当のところ彼のルックスや文章に惹かれていたんだと思う。
ダメ男役満のチキン南蛮さんとのチャットが始まった。
まず最初に困ったのは呼び方だ。さすがにチキン南蛮さんと毎回呼ぶのは煩わしいし実際に会うことになった時にちょっと恥ずかしい。
やはり本名で呼び合うべきだろうと考え、まずは自分の本名を名乗り、「なんとお呼びすればよいでしょうか?」と聞いてみた。
無事、本名を聞き出すことができて安心する。ちあきさん。チキン南蛮の「ち」だ。
彼からは立て続けにチャットが届いていた。
私との共通点を一気に挙げてそう告げる姿に、若さのようなものを感じた。
その後も、私の送るチャットに対してちあきさんは2〜3通の小分けになった返信を送ってきた。
そのテンポは決して急かされているようなものではなく、心地よく会話が弾む。その証拠として、長時間やり取りしていたわけではないのに1日で沢山会話をしていた。
話題は散歩のことから始まって、お互いの好きな公園や自然スポットの話に転じていた。
ちあきさんからお誘いを受けたのはなんとマッチングした翌日のことだった。
何もかもが早すぎる!
返信を打つ私の指が静止した。
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