#私を構成する9枚②:キリンジ「3」

はじめに

本作は、堀込高樹・泰行兄弟の2人で結成されたグループであるキリンジの3作目で、自分の生まれた年である2000年に発売された。
自分はこのアルバムを高校〜大学のあたりに初めて聴いたが、全然音楽的に古さは感じなかった。
実際に、本アルバム収録曲である「エイリアンズ」はcm流れたり、某テレビ番組で再評価を受けている。

全曲レビュー

※:☆の数は自分の好みの程度

1.グッデイ・グッパイ ☆☆☆☆

「双子座グラフィティ」や冨田ラボとコラボした楽曲の「香りと影」に通じるような爽やか系ドライブミュージックでアルバムの幕開けにふさわしいような楽曲。
MVのサンドウィッチが美味そうで食べてみたいと思っていたが、すでに閉店済みとのこと。

2.イカロスの末裔 ☆☆☆

小気味良いカッティングのフレーズやブラスが印象的である、こちらも爽やかな楽曲。コーラスワークも兄弟なだけあって声の相性が良く気持ちいい。

3.アルカディア ☆☆☆☆

フルートのアレンジが印象的な渋く、スモーキーな雰囲気な楽曲。
自分がエイリアンズやdrifterで知ったキリンジに更に興味が湧き本アルバムを聴くようになったきっかけの曲でもある。
MVは「存在と無」「嘔吐」などで有名なサルトルの一文が引用されたところから始まり、ゴダールを代表としたフランス映画のムーブメントであるヌーヴェルヴァーグを彷彿とさせる白黒のロードームービーというオサレな内容であり、まさにこの曲の世界観を表している。
MVのラストの展開は必見!!
ちなみに、この歌詞に出てくる「永遠と刹那のカフェオレ」という歌詞が好きすぎて前のTwitterのアカウント名にしていた。ほんとにどうでもいいけど。

4.車と女 ☆☆☆☆

本作で一番アップテンポで、クラビネットの音が印象的なファンキーなトラックに、踊るように優雅で細かく刻むサビのメロディが聴いてて気持ちの良い楽曲。
ラスサビのバックトラックの数が一瞬少なくなる展開がツボ!
本作の中では比較的に地味な曲に分類されるかもしれないが、個人的にかなり好きで一時期この曲ばかり聴いていた。

5.悪玉 ☆☆☆

可愛らしいアレンジと甘いボーカルに乗せられて歌われるテーマはプロレスのヒール役というなんとも癖のある楽曲。
この曲はキリンジの中では比較的に歌詞がストレートで分かりやすく、それでいて子を持つ父親にも響くように感じるので、全国のお父さんの方々に是非聴いてほしいなんて思ったり。
決め台詞の「破壊の神シヴァよ、血の雨を降らせ給もうれ!」の絶妙なダサさが癖になり、「マイクよこせ、早く!」は明日から口に出したくなるはず…!

6.エイリアンズ ☆☆☆☆☆

言わずと知れたキリンジの代表曲。
自分もこの曲からキリンジを知った。
夜の寒い雰囲気、どこか噛み合わない恋人?との不穏で退廃的な空気が切ない。
特に2番のサビ前の「僕の短所ジョークにしても眉をひそめないで」という歌詞が二人の距離感、ズレを文学的に表していて好き。
深夜の高速道路のサービスエリアに車を止めて聴きたくなる。

7.Shurrasco ver.3

ここからB面といった感じ(LPでは2枚組のため実際にはC面)のインストの小曲

8.むすんでひらいて ☆☆

ベースの反復するフレーズやボーカルのテンション、歌詞が全て鬱々としていて曲の構成、展開が中々に変態的な曲。
この枯れたような世界観は、次作"Fine"に収録されている「切り花」(キリンジの曲の中で5本の指の中に入るぐらい好き)にも通ずるところがあるように感じる。

9.君の胸に抱かれたい ☆☆☆

可愛らしいサウンド、歌詞に乗せて歌われる本作で一番キャッチーな曲(Cメロの展開でキリンジっぽさが一気に増すけど)
そんな曲の雰囲気とは裏腹に、MVは謎アンド謎

10.あの世で罰を受けるほど ☆☆☆☆

軽快なホーンセッションが印象的な曲。
ペーパードライバーミュージックを彷彿とさせるような雰囲気で、ドライブのお供に聴きたい。

11.メスとコスメ ☆☆☆☆☆+☆

個人的な本作のベストトラック。
エレピの上質な音で奏でられる、浮遊感のあるどこか不安定なコード進行がこの曲の歌詞の世界観とマッチしている。
サビ前の「いつでも君のまぶたはやさしく泣いたあとのように美しかった」という昔の相手への愛情に満ちた言葉の後に歌われるサビのどこか他人事で無関心な「きれい」という言葉の連呼がとても残酷で同時に切なくなる。

12.サイレンの歌 ☆☆☆☆

ピアノの伴奏とともに静かな空気で始まる一曲。
コーラスやスキャットが美しく、聴いていてそのまま天にでも登ってしまうような感覚になる。

13.千年期末に降る雪は ☆☆☆☆☆

7分に及ぶ大曲であり、キリンジ流クリスマスソング。
スティーリー・ダンの幻想の摩天楼を彷彿とさせるようなシックで緊張感のある演奏が印象的な本曲の題材は「サンタクロース」。
とはいっても、世間の抱く優しく楽しいイメージではなくむしろその反対、孤独で悲壮感があり、どこか自嘲的になっているサンタクロース。
そんなサンタクロースに対して「悲しげな善意の使者」や「君の暖炉の火を守る人はいない」、「慰みに真っ赤な柊の実をひとつどうぞ」(赤鼻のトナカイ)のように哀しみを理解し慈しみに満ちた感情で歌われる。
あと、Cメロの「帝都随一のサウンドシステム響かせて 摩天楼は夜に香る化粧瓶」の歌詞は何回聞いても痺れる。
帝都随一のサウンドシステムでこの曲聴いてみたい……

最後に

正直、本作は収録時間が60分を超えたり歌詞の情報量も多いので、最初のうちは途中からダレたりしていた。
しかし、Shurrasco ver.3を境目にA面、B面として捉えてそれぞれ別々に聴いてみたら一気に聴きやすくなってあっという間にはまった。
また、自分が本アルバムの好きな点は「サイレンの歌〜千年紀末に降る雪は」の流れである。「サイレンの歌」でアルバムが終わっても全然締まると思うし、むしろその終わり方もありではないかと思うが、曲が終わった後の「千年紀末に降る雪は」のイントロのドラムが流れた瞬間に毎回鳥肌が立ちそうになる。(やっぱり曲の繋ぎは音楽アルバムの醍醐味!)
本当に最後にアルバムを改めて聴き返してキリンジの言語能力の高さに驚き、そのレビューを書こうとしたが自分の言語能力が低すぎて驚いた…笑
でも、一応書き切ることができたからよしとする!!
(最後まで読んでくれた方がいらっしゃるのならば、本当にありがとうございます)

#キリンジ #音楽 #音楽レビュー

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