#私を構成する9枚①:坂本慎太郎 「幻とのつきあい方」

総評

本作は、ゆらゆら帝国のボーカルの坂本慎太郎のソロアルバムの一作目で、「空洞です」の雰囲気を感じさせつつ、それよりも軽やかな印象を受ける。
また、本作から自らベースを弾いたりパーカッションにこだわったりしており、その影響か音に派手さは無いものの手作り感のあるグルーヴを感じることができる。

全曲レビュー

1.幽霊の気分で (Album Version)
本作のオープニング
軽やかなリズム、動きまくるグルーヴィーなベース、いい感じに力の抜けたコーラスに乗せられて「幽霊の気分で彷徨う」というヘンテコなテーマを歌った曲
ヘンテコなテーマなのにどこか切なさを感じさせる
2.君はそう決めた
コンガが印象的なミディアムナンバー
日常の生活を等身大のまま歌ってくれる
肝心なとこでしらけてみたりするが、時には涙を流してみたり、窓ガラスが壊れるほど叫んでみたりしたいという歌詞には愛おしさを感じる
3.思い出が消えてゆく
ハワイアンな音作りのスローテンポナンバー
歌詞の世界観に合うように、切なく溶けるような音の作りになっている
4.仮面をはずさないで
ギターのカッティングが軽快なナンバー
そんな軽快なリズムとは裏腹に歌われているテーマは他人に対して「仮面をかぶったり芝居をしたりして本当の自分を隠している」というもの
しかし、このようなテーマでも絶望的な、ネガティブな感じというより自分を偽るということに諦めがありその状況すら楽しんでいるようにも感じる
5.ずぼんとぼう
個人的に本アルバムでかなり好きな一曲
音数が少なく、ほとんどベースとドラムだけで構成されていて、その音のスカスカ具合には妙な魅力がある
スライやプリンスの密室ファンクにも通ずるようなものがあるように思える
歌詞の内容も本当にヘンテコで面白いが、なんか口に出したくなる
ずぼん ドゥビドゥー 
6.かすかな希望
コーラスが心地よいミディアムナンバー
歌詞にはポジティブな諦め、諦観の念を感じる
7.傷とともに踊る
フルートとカッティングの音が気持ちいいアップテンポナンバー
しかし、歌詞は刻まれた傷とともに踊るといったもの
このような軽快なアップテンポな曲も傷を誤魔化すために無理矢理明るく振る舞っているように思えて切なくなってくる
8.何かが違う (Album Version)
どこか親やすさ、懐かしさを感じるメロディーの一曲
いつもと同じようでも、絶対何かは違う
諸行無常といった感じだけどその言葉にあるネガティブで暗いイメージはなく、むしろ暖かさを感じる
9.幻とのつきあい方
スローナンバーな表題曲
歌詞は、何か実体のないもの(幻)を扱う時は自分が見えなくなったり、他人が見えなくなったりするものだから、それには気を付けるべきというのが自分の解釈
歌詞の真意は神と坂本慎太郎のみぞ知る
10.小さいけど一人前
本アルバムのラストナンバー
歌詞に子供に対する親の温かな気持ちを感じ、聞いているこっちも心が温まる
斜に構えずここまで真っ直ぐで愛を感じる歌詞は珍しいかもしれないかもしれない

最後に

このアルバムを取り上げたのは、個人的に坂本慎太郎のアルバムの中で一番好きだからというのと、人生の中で精神が追い込まれていた時によく聴いていて支えられていたアルバムであるからである。
改めてレビューを書くために聴いてみたが、全体的に音の数が少なくそれでいてグルーヴを感じる「引き算の美学」を感じるような作品であると思った。
また、いつも自分は音楽を聴く時にあまり歌詞を意識しないが、坂本慎太郎
の曲では歌詞も意識して聴いてしまう。
実際に、今回のレビューでも歌詞に対するものが多い。
これは、坂本慎太郎の言語感覚が独特で魅力的なのはもちろん、あえて音数を少なくして、歌詞にも意識を向かせるための隙間をあえて作ったのではないかとも思う。

#音楽 #音楽レビュー #坂本慎太郎 #ゆらゆら帝国

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