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DiscReview by Mitsutaka Nagira

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音楽評論家 柳樂光隆によるディスクレビューです。 即興的にディスクレビューを書いた「Disc Review without Preparation」が多めで、たまに長文のレビュ… もっと読む
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記事一覧

21世紀のブラジリアン・ジャズ ディスクガイド with PLAYLIST

日本では2010年ごろ、アントニオ・ロウレイロの1stが(音楽評論家の高橋健太郎により)発見されたことから徐々にブラジルの音楽シーンの新しい世代に注目が集まるようになった。そこからアントニオ・ロウレイロを中心としたミナスやサンパウロのミュージシャンたちによるシーンの存在が明らかになり、ハファエル・マルチニやフレデリコ・エリオドロら、個々のミュージシャンについても情報が届くようになっていった。 その後、アントニオ・ロウレイロやハファエル・マルチニらが日本のレーベルからアルバム

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Nubya Garcia - Source:Disc Review without Preparation

ヌバイア・ガルシアの『Source』は何より彼女のサックスが素晴らしい。 彼女のサックスの音色=ヴォイスを音楽の中心にどっしり置いて、その演奏で真っ直ぐ勝負しているのに清々しささえ感じる。クンビアあり、アフロビートあり、レゲエ/ダブありの様々な要素が混じるバラエティ豊かな楽曲の中でそのヴォイスを最大限に活かすことで独特の情感を奏でている。 「Source」ではミドルテンポのレゲエのリズムの上で、サックスをリズム化させずに真っ直ぐなロングトーンも駆使して音色の魅力を推しつつ

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2020年のスタンダード・ナンバー:Sam Gendel『Satin Doll』とRafiq Bhatia『Standards, Vol.1』

■80年代以降のスタンダード・ナンバージャズの世界ではスタンダード・ナンバーと呼ばれる曲がある。 「枯葉」「いつか王子様が」「サマータイム」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「マイ・フェイバリット・シング」などなど、ジャズ・ミュージシャンのオリジナル曲から、ミュージカルや映画の名曲など、ジャズの世界で繰り返しカヴァーされて、定番曲となった曲のことだ。 ジャズ・ミュージシャンたちはそれらを繰り返しカヴァーし、多くの人が演奏してきた曲をどれだけ斬新なアレンジで、どれだけ斬新な

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Makaya McCraven - Universal Beings:Disc Review without Preparation

マカヤ・マクレイヴンの2019年作『Universal Beings』はNY、シカゴ、ロンドン、LAと分けた4部構成。このアルバムはこの年を代表する一枚であり、2010年代の重要作でもあると断言できる。 それぞれのセクションで、それぞれの地域に由来したメンバーとのセッションを行い、そこでは楽曲に関しても、現代のジャズの四ヶ所における地域性を示している。全てのセッションでドラムだけはマカヤが全て自分で叩いてて、それらの地域性や音楽性を的確に叩き分けて、溶け込んでいるのがまず驚

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現代ジャズ・ヴォーカル特集 booklet:CORE PORT Jazz Vocal Collection & PLAYLIST

ベッカ・スティーブンスやグレッチェン・パーラト、カミラ・メサなどの国内盤をリリースしているレーベル“コアポート” 海外のアーティストからも信頼の厚いコアポートをJazz The New Chapterは創刊時からサポートしていますし、コアポートもまたJazz The New Chapterの取材などに協力してくれています。 2017年にサラ・エリザベス・チャールズ『Free of Form』のリリース時にコアポートと柳樂光隆(Jazz The New Chapter)のコ

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Philip Bailey - Love Will Find A Way:フィリップ・ベイリーがロバート・グラスパーらを選んだ理由

フィリップ・ベイリーと言えば、アース・ウィンド&ファイア(以下EW&F)のヴォーカリストで、名曲「Fantasy」などでの印象的なファルセットでお馴染みだが、新作『Love Will Find a Way』ではロバート・グラスパーに、カマシ・ワシントン、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、ケンドリック・スコットと現代ジャズシーンの最重要人物たちとコラボレーションしていて、前情報の時点で驚いてしまった人も多いだろう。ただ、これにはそれなりの理由があり、このコラボレーション

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Marcus Strickland's Twi-Life - People of the Sun:Disc Review without Preparation

マーカス・ストリックランドズ・トゥワイ・ライフ『People of the Sun』マーカス・ストリックランドはロバート・グラスパー世代のサックス奏者。グラスパー同様、早くから才能を認められていたマーカスは2000年代初頭からリーダー作を次々と発表し、同世代のトップランナーとして知られていた。 ジョン・コルトレーンやウェイン・ショーターをリスペクトする彼は60年代後半のマイルス・デイヴィス・クインテットのサウンドからの影響も感じるコンテンポラリーなジャズをベースにしていたこ

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Mark Guiliana - BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!:Disc Review without Preparation

マーク・ジュリアナ『BEAT MUSIC! BEAT MUSIC! BEAT MUSIC!』デヴィッド・ボウイ『★』やブラッド・メルドーとのユニットのメリアーナでも知られる現代ジャズを代表する奇才ドラマー マーク・ジュリアの新譜が素晴らしい。 彼自身のドラミングの変化とサウンドの進化が生演奏にできることの可能性をいろいろ示唆している。電子的なのに肉体的、でもしなやかで滑らか。マーク・ジュリアナがこれまで発表してきた音楽の中でも異質だ。 マーク・ジュリアナはここ数年、アコー

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Christian Scott aTunde Adjuah - Ancestral Recall:Disc Review without Preparation

クリスチャン・スコット『Ancestral Recall』 ルイジアナ出身のジャズトランぺッターのクリスチャン・スコットの新作が凄まじい。これは紛れもない最高傑作だ。 彼が提唱している「Stretch Music」というコンセプトのなかにもあると思われる「アメリカ音楽のルーツを辿った先にカリブとアフリカがあり、そこから世界の音楽が接続される」考え方のその先を突き詰めた感がある。 特に2曲目「I Own the Night (feat. Saul Williams)」がすご

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Omri Mor - It's about Time:Disc Review / Live Report 2019/05/18

オムリ・モール『It's about Time』 アヴィシャイ ・コーエンやオメル・アヴィタルが起用するイスラエルのピアニスト オムリ・モールのアルバム。 ピアノが超絶上手いのは言うまでもないが作曲がすごい。どんどん展開していくしリズムもどんどん変わる、なんだこれ… ここ最近のイスラエルジャズの若手から薄れていた濃厚な中東サウンドがあるとも言えるけど、強すぎてなかなか収まりきらないくらいの地域性の落とし込み方が超個性的で、イスラエル・ジャズの中でもあまり聴いたことがない感

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Kendrick Scott Oracle - A Wall Becomes A Bridge:Disc Review without Preparation

ケンドリック・スコット・オラクル『A Wall Becomes A Bridge』現代ジャズシーン最高のドラマーの一人でもあるケンドリック・スコットの新作が最高到達点を更新してる。 特別なことは何もしてないように聴こえる。前々作『Conviction』でスフィアン・スティーブンスを、前作『We Are The Drum』でフライングロータスのカヴァーをしているようなキャッチ―な曲があるわけでもない。ロバート・グラスパーのバンドのDJのジャヒ・サンダンスが入ってて、声ネタを仕

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Jamila Woods - Legacy! Legacy!:Disc Review without Preparation

ジャミーラ・ウッズ『LEGACY!LEGACY!』シカゴのチャンス・ザ・ラッパー周辺のコミュティのシンガーで詩人のジャミーラ・ウッズの2作目が良い。 ビートの音の1つ1つの生々しさと打撃音と破裂音のノイズ感がすげーエモーショナルで、ベースの低音の低さと厚さ、ギターやシンセも刺激が強い音色で触覚的。肌が感情を受け取るくらいのサウンド。ベースラインも時々現れるギターソロも超エモーショナル。それそれのフレーズが不穏だったり、怒りにも似たテンションがあったり、いちいち意味が強すぎて

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Noname - Room 25:Disc Review without Preparation

ノーネーム『Room 25』シカゴのチャンス・ザ・ラッパー周辺のコミュニティのシンガーで詩人でラッパーのノーネームの作品は肩の力が抜けまくりで、日中のカフェで流れてて欲しい最高のBGM。 タイニー・デスク・コンサートを思わせる小音量で軽やかな演奏とリラックスした雰囲気をスタジオで作り込んだみたいな質感はありそうでほかにない音楽だと思う。 Rhye的な肌が触れる距離の恋人的な親密さじゃなくて、友達が何人か集まってる行きつけの個人経営のバーやカフェくらいの近さ。近いんだが、全

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Lourenco Rebetez『O Corpo de Dentro』:Disc Review

ロウレンソ・ヘベッチス『O Corpo de Dentro』ロウレンソ・ヘベッチスの音楽を簡単に説明すると、マリア・シュナイダーがやっているようなクラシック~ギル・エヴァンス経由のホーンアンサンブルがありつつ、それと並行してディアンジェロ~ロバート・グラスパーが採用しているようなクエストラヴ~クリス・デイヴ経由のJ・ディラのビートを生演奏のドラムに置き換えたようなサウンド(ちなみに時折ホーンのアンサンブルにロイ・ハーグローヴ~黒田卓也的なネオソウルのフィーリングを仕込んでいる

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