『「若者」をやめて、「大人」を始める』と、大人になれるアメリカのジャズミュージシャンたちの話

『「若者」をやめて、「大人」を始める ー「成熟困難時代」をどう生きるか?』という本を友人が買っていたのをツイッターで見て、良さげなので気になっていたところで、著者の熊代亨さんによるこんな記事が流れてきて、

➡シロクマの屑籠 『「若者」をやめて、「大人」を始める──成熟困難時代をどう生きるか?』を出版します
http://p-shirokuma.hatenadiary.com/entry/20180118/1516239000

サクッと読んでみたら、あー、やっぱり良さそうだなと。おそらく自分が今、読むといい本なんだろうなと。すぐさま書店で買って、空き時間に一気に読んでみたら、やっぱりとてもいい本だった。

現代において、「若者のままでいることとはどういうことか」「大人になることとはどういうことか」について、極めて常識的なことがとてもシンプルにわかりやすく、そして論理的に書いてあって、魔法の言葉のようなものは何も書いていないのだけど、でも、今、僕が思っていることの背中を押してくれるような本でもあった。だから、読んで良かったと思う。

特に僕のように音楽を中心としたカルチャーにどっぷり浸かって、生活の中心がカルチャーです、みたいな生活を10代のころからしてきて、そのまま年齢を重ねて、気付いたらおじさんになっていた、みたいな人のために書かれた本だ。

更に僕の場合は、レコードショップで働き、そのままフリーのライターになったので、10代のころの延長のような生活をしたまま、それが仕事になり、今に至る。趣味が仕事になったともいえるが、その実感は在るようで無い。時折、自分は遊んでいるのか、仕事をしているのかわからなくなる時もあるし、明らかに毎日仕事をしているのだが、きっと遊んでると思われているんじゃないかという妙な被害妄想のようなものがふっと湧いてくる時もある。記事にするための制限時間が決まった一発勝負のインタビューとはいえ、みんなが憧れる一流のミュージシャンと会って話をするわけで、自分の中にも仕事の部分と会えてうれしいファンの部分が両方あるのも確かなわけで、その後ろめたさみたいなものもあるのだろう。

今の仕事にたいして迷いはない。というよりは、きた仕事をひとつづつこなしていくだけで精一杯で迷いもクソもない。ただ「これは本当に仕事なのか」「これは仕事だと思われているのか」みたいなことを時々考えてしまうのって、要は「大人になれているのか」「大人だと思われているのか」みたいな部分で不安だったりするのだと思う。

きっと僕は「大人になれたかどうかがわからない」し、「大人になれているかどうか自信がない」のだ。

だから、こういう本が読みたかったんだと思う。

それはそうと、この本の中で、自分が成長することだけではなく、先輩や上司になって後輩や部下の成長を、子育てをすることで子供の成長を見守ることについて書いてある。要は教育の話で、「年長者になったときにどうふるまえばいいか」、もしくは「自分が理想的な年長者になるために年長者になる前にどんなことをすればいいのか」みたいなことが書いてある。「大人っていう立場だからできること」「大人って立場になったら求められるかもしれないこと」の話とも言えるか。

この部分は僕がここ数年、自分の役割って意味でよく考えていたことだったりする。それはジャズミュージシャンにインタビューしたりした時に、彼らがやっていることを聞いて気付いたことの延長にある。

例えば、グラミー賞も受賞しているスナーキー・パピーというバンドは世界中を回ってツアーをしていて、今は年に一度、自身が運営するグラウンドアップ・レーベルのイベントとしてフェス《GroundUP Music Festival》を行っている。このフェスはグラウンドアップに所属するアーティストや、スナーキー・パピーが認めるライブ・ミュージシャンをゲストとして呼んでいる。そんなライブと並行して、同じ会場で、出演するミュージシャンたちによる様々なワークショップやレクチャーが行われる。このフェスはライブを観てもらうだけではなく、ミュージシャンが音楽を教えるためのものでもある。(※2018年はマーク・ジュリアナ、ロバート・グラスパー、ジョシュア・レッドマンなどによるワークショップが開催される ➡ http://festival.groundupmusic.net/workshops

以下はマイケル・リーグのインタビューでの発言

——今度、レーベル主催のフェスティバルをやるんですよね

マイケル・リーグ「そうだよ。ライブだけじゃなくて、開催する地域の活性化になるように、出演者にはコミュニティーワークをやってもらったり、音楽教育を必ずやってもらうんだ。マスタークラスやファンとのQ&Aとか、レクチャーとか、スクリーニングとか、パネリングとか、音楽業界のことを学ぶ場を作ったりね。」

——スナーキー・パピー自身もツアーの合間にかなりの数のワークショップをやっていますよね

マイケル・リーグ「僕自身もそうだし、僕のバンドメンバーもそうなんだけど、今まで音楽学校とか、プライベートレッスンとか、メンターと過ごした時間とか、そういう経験が自分たちの今を作っていると思うんだ。同じことを若い世代にシェアして残していきたいと思っている。世界中の素晴らしいアーティストと、アーティストの卵たちと一緒に本当に素晴らしいものを作っていきたいんだ。」

彼らは世界中でもツアーの合間にワークショップなどを行っている。自分たちの経験や知識をシェアするということに意識的なのだ。

実はジャズの世界においては、これは特別なことではない。ジャズミュージシャンたちは様々な形で若いミュージシャンのために教育の場を設けている。ベッカ・スティーブンスグレッチェン・パーラトレベッカ・マーティンもまた3人でワークショップを主催している。

➡グレッチェン・パーラトがティレリーについて語ってくれたインタビューのOutTake

そんなケースは山のようにある。あのロバート・グラスパーだって、仕事ではあるが、バークリー音楽院やニュースクール音楽院、更には母校のヒューストンのパフォーミング・アーツ高校まで様々な場所で若いミュージシャンたちに教えている。そういえば、ニュースクールでは生徒は学校外の先生に個人レッスンを受けなければいけないみたいなのがカリキュラムに組み込まれていて、多くの学生は自分が好きなプロのミュージシャンにレッスンを受けるとか。ジェイソン・モランに教えてもらったとか、ビラルに教えてもらったとか、いろんな話がある。つまり、それってプロのミュージシャンが若いミュージシャンに教えるということが、USのジャズ教育の中に組み込まれていて、みんなが先生になっていくシステムができているとも言える。彼らは若いミュージシャンを指導して、自分以外の誰かが成長する喜びを知る機会を得ることができているとも言えるだろう。

さらに言うと、USのジャズの世界では地域で音楽を教える私塾のようなものも存在する。もっとも有名なのはシカゴのAACM。アート・アンサンブル・オブ・シカゴなどを輩出したことで知られるこの組織は、ムハール・リチャード・エイブラムスらが設立し、ずっとシカゴのジャズ・シーンを支えている。シカゴ音響派ともつながりがあったフレッド・アンダーソンらが若いミュージシャンの先生になっていた。

カマシ・ワシントンテラス・マーティンサンダーキャットらを育てたのは、オーネット・コールマンとの共演でも知られるドラマーのビリー・ヒギンスで、彼がLAでワールド・ステージという教育機関を運営していて、そこで若いミュージシャンたちにジャズを教えていた。ピアニストのホレス・タプスコットもニンバスというレーベルを運営しながら、コミュニティーの若いミュージシャンを指導していた。


デトロイトではトランぺッターのマーカス・ベルグレイヴが、NYのハーレムではメアリー・ルー・ウィリアムスが、NYのクイーンズではウェルドン・アーヴィンが若者たちにジャズを教えていた。

UKでもファイア・コレクティブトゥモローズ・ウォーリアーといったアーティストが自らの経験をもとに若いアーティストを教育する組織がある。

こういった話は『Jazz The New Chapter』シリーズにたくさん載っている。つまり、主にUSが中心だが、ジャズの世界ではそんな話は山のようにあるということだ。そして、どうやらそんな役割を果たしている人や組織はいくらでもあり、地域のブラスバンドやマーチングバンド、最小単位になると教会でゴスペルを教えているようなケースにもなる。おそらくブラジルのサンバにもそういう役割を果たしている人たちがいるのは想像に難くない。

そうやって、ジャズを中心にUSの音楽を見ていると、ミュージシャンや音楽に関わってきた人たちが、年齢とキャリアを重ねた先に、教える、育てる、シェアする役割が自然に待っているのがわかってきた。時折、彼らがこの先を見据えつつ、過去も現在とが繋がっている地域やシーンについて語るときに《WE》で喋るときの豊さって言うのをまぶしく見つめることがあるんだよな。

この部分は『「若者」をやめて、「大人」を始める』に照らし合わせれば、世代を超えた交流ができる場所があるって意味でも、非常に有意義な気がする。世代間の尊重も生まれやすいのだろう。

それを知ってから、僕も「音楽について書く」もしくは「書く」が軸にはなるが、「インタビューする」「本を作る」「本を企画する」なども含めて、その方法論や技法や手法をシェアできないものかと思うになった。それはUSの音楽シーンを見てきて、どんな領域であろうとその世界で曲がりなりにもプロとして仕事をしてきたら、シェアできるものはあるだろうし、年相応の役割を作ることは出来ないかという思いもあった。

例えば、ジャズ評論家はAACMのようなありかたをリスぺクトしているし、その活動をもっと日本にも届けるべきだというようなことを昔からよく書いている。でも、音楽について書く、調べる、研究するって部分で「自分の経験や知見をシェアしよう」みたいな話はあまり聞いたことがない。音楽家が音楽の方法を教えるように、評論家が評論の方法を教えるような話ってあまり聞いたことがない。

だから、評論家が大人になるってことを試したいなと思って、あれこれやっている。僕のやり方が正解かどうかはまったくわからないけど。

これまでにも『Jazz The New Chapter』の制作時に、若いライターに取材の模様を見学してもらったり、編集過程をシェアして学んでもらったりもしてきた。

そのうえで、若林恵さんとライターや編集者のための講座《若柳樂音筆の会》(※宮田文久さんを加えて、《若柳宮音筆の会》へとバ—ジョン・アップしました)を始めたり、

岡本尚之くんからインタビューについてのインタビュー受けたりしたのもそういう意図で、シェしてみようって気持ちからです。

自分の経験の中で得てきた手法や方法論、ハックてきなことなどを包み隠さずシェアすることで、自分の周りの世界が面白くなったりするんじゃないかなって思いもありつつ。僕の方法論が誰かがもっと上に突き抜けるためのヒントになって、僕や僕の周りの人たちに新しい景色を見せてくれたりしないかなーなんて。ちなみに若林さんに「手の内をどんどん話す感じの講座やりましょうよ」って言ったら、「面白そうじゃん」って即乗ってくれたのが《若柳宮音筆の会》の発足きっかけです。

USのミュージシャンたちが音楽家として成長しながら、同時に次の世代が音楽家として成長することを見守る立場になっているように、僕も成長速度は落ちていくかもしれないけど、身につけたものをきちんとブラッシュアップしながら、次の時代に貢献出来たらいいかなと。

ということろで、『「若者」をやめて、「大人」を始める』はすでに前に進んでたところを更に一押ししてくれた気がする。僕も大人になれるかな。

最後に今、NYで活動する日本人の鍵盤奏者BIGYUKIのインタビューの一部分を掲載したい。音楽の記事の中では優先度は高くない箇所だけど、この文脈で見ると意味が変わってくると思う。

——じゃ、スタジオでセッションしながらその場で作るってことですか?このアルバムって、普通に聴いたらかなり準備してあらかじめ作ってきたものを演奏している感じに聴こえるし。

BIGYUKI「<ソフト・プレイシズ>でのビラルなんて、あの場で初めて聴いて、あれやったからね。歌詞もその場で考えて。あの歌詞とかやばいでしょ。鳥肌たったもん。あれは神がかってたね。」

——そのスピード感はほんとにすごい。

BIGYUKI「俺がそうだし、そのスピードがNYのQティップのセッションのスピード感だったりするわけだから。超忙しい人を集めてやって、中には家族もいたり子供がいたり、そういう時間がない人間が集まってやっていくので、「ちょっと待って考えさせて」とか言うようなやつはチーム外れちゃうよね。スピード感は大事だよ。発想のスピードね。」

ジャズでもヒップホップでもR&Bでも音楽家が大人だからこその時間を(家族や子供に)割くために圧倒的な才能を使ってんのかっこいいなって思いました。

ロバート・グラスパーもビラルも、大人なんだよな、ちゃんと。などと取材してて感じるのでした。

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『「若者」をやめて、「大人」を始める』と、大人になれるアメリカのジャズミュージシャンたちの話

柳樂光隆

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柳樂光隆

79年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など
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