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とても好きな短歌の記録(3)

記録もこれで一区切り…とほっとしたら、ノートに手書きしたのやら、メモ代わりにメールの下書きにしていたのやら、更には連作をスクショしたのと果てしなく見つかってしまう…終わらないこわいうれしい…

なみだを吸ってなみだを流さないままで影を濃くしてゆくぬいぐるみ/永汐れい
たましひをあつかふやうになめらかな白いレースをきみは穿きたり/高田月光
セイレーンが校歌を口ずさむあいだ沈没船になる体育館/高田月光
つらい恋してきたんだねじゃあ俺はエヴァの話をしてもいいかな/川島薪
愛はとても速く誰も見たことがないというそれをいまからあなたに見せる
/野村日魚子『百年後 嵐のように恋がしたいとあなたは言い 実際嵐になった すべてがこわれわたしたちはそれを見た』
茶器のなか手放すようにひらきたる茉莉花こんな晩年がいい/toron*
したたかに生きてゆかねば蟷螂の母はいずれも寡婦なのだから/toron* 
さくら舞い終えてきれいな花筏 あなたの死にも名前がほしい/はとサブレ 
朝、東、夕、西、ときに頷いてあなたはためす夢の実験/芝澤樹
こんなときプリキュアが来ておかしいよ!怒鳴るなんてと言ってくれたら/ 深山睦美
加藤おまへだけぢやないのだ會澤の唾液の甘さを僕も知つてる/水沢穂波 
おかあさん大好き ひとりで母になる前のあなたを助けたかった/鳥さんの瞼 
つぼみひらきて裏返るまでひらけるを夜の玄関の百合は筋肉/内山晶太『窓、その他』
一針ずつ刺繡のごとく生きていてみんなみんな表は華やか/樋口直子
生活をやめるのですかその紐で何度きみに蝶をあげたい/霧島あきら 
命にも死にも気圧されるなむすめ百戦錬磨の産婆のように/野川りく『遡上 あるいは三人の女』
月食を象つたやうな深爪の指にわたしを辿らせてゐる/西鎮
宝石のような総ルビまといたる泉鏡花を読み進めおり/深海奉史
勇者にも戦ひたくない夜はありをどりこだけの隊列を組む/小金森まき
恋人が(ああ「元」だった)使ってた香水の味を思い出せない/谷川電話
吹雪く夜は百味箪笥のそれぞれの部屋に隠れる蝶を思えり/斎藤秀雄
自由ってこんなにしずか祝福のようにほどいたあやとりの塔/うすいはるか
美しいお伽噺になることをそれたひとから蛾になってゆく/うすいはるか
すずらんのように体を屈めつつふたつの乳房をまとめる朝は/北山あさひ『崖にて』
美しい食器を重ねてゆくような緊張がある片恋の日々/宮園佳代美
洗われた夜明けの海に立つ虹よ あと2メートル可愛くなりたい/鯨井可菜子『タンジブル』
一生パソコンに触れず飛行機に乗らず母はみどりの明るい古墳/林和清『朱雀の聲』
舌赤く染めて硝子を食べているわたしが夏に産みし生きもの/藤田千鶴『貿易風トレードウインド』
草のなかに草のやうに倒れてをれば夜はわれのなかより蛍(ほうたる) /村山悠子『卵の番』
暖色のハブラシならび正直に損をしてきた父母を想いぬ/中沢直人『極圏の光』
妹をさがしゆく夕 どの貌も妹に似てあぢさゐなりき/岡部史『海の琥珀』
孫というおそろしき奴わが父をゾウやキリンに変身させて/本多稜『こどもたんか』
スカートがわたしを穿はいてピクニックへ行ってしまったような休日/大滝 和子『銀河を産んだように』
この春は未来の息吹 二つの目縦に並べる人々歩む/大津仁昭『爬虫の王子』
バラの香の保湿ミルクを腕に塗る生態系の外側にいる/桃園ユキチ
いちどきりピアスは耳を突き抜ける別な星から呼ばれるように/山階基『夜を着こなせたなら』
サイダーの千の気泡を飲み干して、さあ、もう人でないものにおなり /嶋田さくらこ
母さんの自作だったと後に知るお伽話で燃えていた町 /櫻井朋子
指からめあふとき風の谿は見ゆ ひざのちからを抜いてごらんよ/大辻隆弘
おれか おれはおまえの存在しない弟だ ルルとパブロンでできた獣だ/フラワーしげる
生まれる子生まれない子とひしめいて保温ポットの中のきらきら/佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』
ふたりきり静かの海に降り立って燃える地球を眺めませんか/山口綴り
うつくしい牛の眼をして運命がまだやわらかいぼくを見ていた ╱佐藤弓生『薄い街』
「fire」がはじめて覚えた言葉でしょうヘレン・ケラーがわたしだったら/鈴木美紀子『金魚を逃す』
わたしの裡にガラスの植物園があり夏の朝には奥まで行ける/小俵鱚太
瓶から器で注ぐとき懐かしいのはなぜでしょう オータム、フォール、どっちもおいで/小泉夜雨
心にも客間がほしい 客のない夜も贋作の絵などをかけて/睦月都『Dance with the invisibles』
あやまちて切りしロザリオ転がりし玉のひとつひとつ皆薔薇 /葛原妙子『原牛』
35歳。とてもおおきいごま油。わたしはそれを使い切るだろう /井口可奈「悪く思わないで」
さつきみたゆめのはなしをしてはだめ 祖母の口から雨の降る音/森山緋紗

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