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企業した先輩に引き抜かれた僕が未払い給与を取り返して転職するまで その一

以前お世話になった人から「人間の幸福」を左右する要素をいくつか教わったのだが、その中のひとつに「コントロール感」なるものがあったように記憶している。

「自分自身で自分の人生を支配している」「自分の意思で人生の決断を変えられる」「自分が変わることで自分の人生はもっと良くなる」と思えていること、信じられている状態のことを指すらしい。学校を出てからしばらく、ありがたいことに気ままに進路を選んできた分、今、僕がこうして人生において「コントロール感」を失っている実感があることそのものが歯がゆく、悔しいと思う。

自分を取り巻く状況を鑑みるに、自分が何を考え、どんなことに対して「辛い」と感じ、どんなときに「救われた」と思えたのか、その顛末を記載していこうと思う。来年にもなれば「たいしたことなかったね」と笑い飛ばせているはずだと願っている。

8月末の定時数分前。自宅作業を決め込んでいた僕のメールボックスに僕の上長すなわち社長から「【必読】」から始まる物騒なメッセージが舞い込んだ。長文だったが、要約するとこうだ。

弊社の経営状況がヤバい。私はプレイヤーに戻るが肩書は社長のままとする。明後日から経営は外部の人に入ってもらうことにする。以上。

「はぁ」としか言えなかった。もともと、30人以下の組織でパートや業務委託も多く、コアになるメンバーは多く見積もっても8名。こんな連絡を、あっさり、メールで、突然。僕の先輩への信頼が大きくゆらいだ。

(まあ、最初から100%信じられる人だと思って入社したわけではなかったけど。)

そのメールには返事をしそびれたまま出社して同僚と仕事をしていたら、昼過ぎに「経営をやってもらう外部の人」が会社にやってきた。僕らが「あのメールになんて返せば良いのかわからないね」と口々に話し、月末最終営業日だったので経理担当が請求書とにらめっこしながら会社の口座残高を見比べ、大きなため息をついているときだった。

「外部の人」はまず経理担当が見つめていた請求書の束を取り上げ、支払うべきものと支払わないものに仕分けをしていった。僕は「支払わない」という選択があることに驚いた。そして仕分けが終わると「払わなければならない請求書だけ」経理担当に手渡し銀行に振り込みに行くよう指示した。そうしたら、その場にいた従業員たちに「ざっくりでいいから給料を教えて」と聞いて回り始めた。僕は、残業代を含まない基本給の金額だけを伝えた。

それからしばらく、「外部の人」は紙に向かいながらずっと思案していた。不思議な空気だった。社長からのメールは一人を残して全員が読んでいた。一人はなんと社長からのメールが届いていなかった。たぶん、送信ミスだ。また、信頼がゆらぐ。「この会社はつぶれるのか?」「これから僕たちはどうなるんだ?」だれにもわからなかったから、「外部の人」の判決を待つしかなかった。こう書くとお通夜のような空気だったかのような印象だが、そんなことはなく、いつもの職場、くらいのポップさは残していた。これはみんなが努めて明るく振る舞おうとしていたせいはもちろんあると思うが、それよりは、「やばいとは言ってもまあなんとかなるでしょ」という楽観視のせいだったんだろうな、と今になって思う。

聞き慣れない声で「経理担当が銀行から戻ってきたら話す」という通告が行われた。さあ、判決を待つ。

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