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予備実験しなかったら授業でとんでもない失敗をした ~中1・水上置換法に関する授業にて~

前置き

本記事は、理科教育アドベントカレンダー2021の19日目の記事になります。この理科教育アドベントカレンダーでは、様々な立場の方が「授業実践の事例」、「授業外での理科教育(科学教育)に関する取り組み」、「今後の理科教育において必要になる研究領域」といった内容を紹介して下さっています。そんな中、「私も書きます」と参加してみたはいいものの、功績や経験も何もない私が一体どんな記事を書けるのかと考えてみると、もはや「こんな失敗しました」という失敗事例を書くほかないのではないかと思いました。本記事は特に、来年から校種を問わず理科授業をする予定の全ての方に、「こんな失敗は絶対にしないようにしよう」と思っていただければ幸いです!

失敗が起こった背景

(1)教育現場の多忙さ

私は、今年の春に大学院を修了して中学校に常勤講師として勤務している、いわゆる「教師1年目」の人間です。学部から大学院にかけて理科教育学を専攻していたので、教育現場に出たからには「この学習内容ではこんな授業をして、この学習内容ではこんな授業を」、というように授業で勝負できる教師になりたいと考えていました。したがって、絶対に「授業準備」や「教材研究」を第一優先にしよう、そう思って教育現場に出たわけですが、なかなか理想のようにはいかない現実に直面しました。

とにかく授業以外にリソースが割かねばならないことが多かったのです。校務分掌、部活指導、所属する学年に関する様々な業務、生徒指導、感染症対策のための教室の消毒作業、放課後の教室環境の整備、「なんじゃこりゃあー!?」と血を噴き出して倒れそうなほどのタスクと並行して理科の授業をしなければならないことを、私は教育現場に出て初めて知ったのでした。

そして、上述したタスクに加えて、さらに理科固有の授業準備(予備実験)が私を圧迫することになるのでした。

(2)予備実験の大変さ

観察・実験という学習活動が伴う理科授業では、授業者が事前に「予備実験」を行う必要があります。予備実験を行う理由については、①「使用予定の器具で円滑に活動を遂行できるかどうか確認するため」、②「学習者がどのような操作でつまずくのか予測するため」、③「器具を操作する過程で危険な場面を事前に特定して学習者に安全指導を行うため」、といった3点が挙げられるかと思います。学生が教育実習で理科授業をする際にも必ず行う予備実験ですが、当然日々の理科授業においても、学習者を観察・実験に取り組ませる際には、授業者は事前に予備実験を行わなければなりません。

そして、この予備実験は、私にとってはかなり困難が伴うものでした。過去の記事でも書いたように、言い訳がましく情けないですが、私は「理科の学習内容に関する知識」や「観察・実験で使用する器具」に関する知識が乏しく、予備実験をしても教科書通りの現象を再現できないことがしばしばありました。しかもなぜ再現できないのかもわからない、同僚のベテランの先生に聞いてみてもう一度やってみてようやく再現できる、そういったことが多々ありました。このように予備実験は、私にとって完了することが容易ではないタスクだったのです。

以上のように、(1)教育現場の多忙さと(2)予備実験の大変さの両方に押しつぶされながら日々をやり過ごしていた私は、ある日ついにとんでもない失敗を犯してしまうことになるのでした…

中1理科:「気体の性質」

それは、私が担当する中1理科の授業が、粒子領域の「気体の性質」に関する学習内容に入ったときのことでした。「気体の性質」では、「各種気体には固有の性質がある」ということを探究的な活動を通して学ぶことが求められ、加えて水上置換法、上方置換法、下方置換法といった「気体の収集方法」などの知識も獲得させる必要があります。

私は観察・実験を行う前の授業で、まず「石灰石に塩酸をかけて出てきた気体Aと二酸化マンガンにうすい過酸化水素水をかけて出てきた気体Bの正体は、みんなが小学校のときに勉強した気体やけど、一体正体は何なんやろうね~」なんて言いながら、とりあえず気体の正体を調べるためには集めなければならないという見通しを持たせ、次に「じゃあ次回、こんな方法で気体を集めて、こんな方法で気体の正体を調べてみようか」と水上置換法を利用した気体の同定を行うことを示唆して終了しました。

本来ならば、次回の授業までに、実際に授業で使用する薬品と器具で予備実験を行う必要がありましたが、結局私は予備実験を行うことなく当日を迎えることとなりました。

その理由は、とにかく上述した毎日の業務に疲弊していて予備実験を行う気力がなかったことと、水上置換法自体は、私が別で担当している中2理科の熱分解に関する授業ですでに行ったことがあるから問題なく指導できるだろうと思った慢心が挙げられます。「薬品とガラス器具の扱いの注意だけでなんとかなるだろう」、そう考えて、水上置換法による気体収集の授業日を迎えたのでした…

ハプニング①:気体が集まらない

水上置換法を行う授業当日、実際に生徒に取り組ませると、問題はすぐに発生しました。試験管に気体がなかなか集まらないのです。それは、二酸化マンガンにうすい過酸化水素水を加えて酸素を発生させる際に顕著にみられました。「せんせーい、気体が全然たまりませーん」という声が頻発しました。なぜ気体がこんなに集まらないのか、気体の発生する速度が鈍いのか、薬品が不良品だったのか、まったく原因がわからず、酸素以外にも二酸化炭素も収集する予定だった中、試験管に複数本収集できるような状況でないことに困惑しました。

その日使用していた試験管は、先程述べた中2の熱分解でも使用した試験管でしたが、後からわかったのですが、この授業で使用するべき試験管は小さめのものでした二酸化マンガンにうすい過酸化水素水を加えて酸素を発生させる場合、発生する量やスピードは小さいので、時間内に複数の試験管に気体を収集できるよう、小ぶりの試験管を使用するべきだったのです。これはまさに、先程予備実験を行う理由として述べた使用予定の器具で円滑に活動を遂行できるかどうかの確認」を軽視したために発生した問題でした

ハプニング②:集めた気体を逃がしてしまう

気体が集まらないハプニングに見舞われながら、なんとか試験管に気体を集めても、問題は立て続けて発生しました。「どのようなタイミングで」、「どのように試験管に栓をするのか」ということを指導できていなかったため、気体を空気中に逃がしてしまう実験班が続出しました。中2に水上置換法を取り組ませたときはこのようなミスがなかったため、私はさらに慌てることとなりました。「先生、栓をするのって水中でしないといけないんですかー?」、「試験管の中に水がなくなるほど気体がたまったらいいんですかー?」などの声がまたしても頻発しました。

それもそのはず、私は事前に「水上置換法」というものを大雑把に教えていただけで、具体的な器具の操作指導をしていませんでした。しかし中1の生徒にとっては、はじめて行う水上置換法、はじめて試験管に栓をする操作です。この視点が完全に抜け落ちていたと気づいた私は、すぐに各班をまわって指導しましたが、時すでに遅しでした。つまり、予備実験を怠ったことで、「学習者がどのような操作でつまずくのか予測する」ことができなかったのです。中1にとってこれははじめてだから丁寧に指導したするべきだという考えにいたることなく取り組ませてしまっていたのです。

ハプニング③:思いつきの指導による試験管爆発

上述した2つのハプニングにより授業はボロボロ、授業が終了する前に「やり直しをしよう」と考えはじめていたころ、ひとりの生徒が私に近づき、「先生、栓がとれなくなりました」と言いました。その生徒は栓が奥までつっこまれた試験管を手に持っていたのです。どのように栓をすればいいのかという指導を怠ったために生じた問題でした。

栓全体が試験管に入り込んでいるため、取り出す「きっかけ」がありません。一連のハプニングで気が動転していた私はついに最大のミスを犯してしまいます。

「そうだ、試験管を加熱すれば栓が飛んでいくのでは」と悪魔的なひらめきが脳を駆け抜けたのです。試験管を加熱すれば、試験管内の空気が膨張、また試験管に残った水が水蒸気となって体積が大きくなって栓を押し出してくれるだろう、と。これは絶対に真似をしてはいけません

「ガスバーナーに火つけよか」と言って点火し、「試験管のおしりをこれでしばらく加熱しといて、たぶん栓がぬけるから」と生徒に試験管を持たせ、依然問題が頻発しているその他の班への指導に行こうとした矢先、加熱をはじめてわずか数十秒で爆発が起きました

バーン!!と世にも恐ろしい音が理科室に鳴り響き、教室の生徒は「キャー!!」と悲鳴を上げました。私は背を向けていたので、一瞬何が起こったのかわかりませんでしたが、床に飛び散った試験管の破片と、試験管を持っていた生徒の恐怖と驚きの顔で状況が理解できました。私はなんてことをしてしまったのかと、頭が真っ白になりながら震える声で生徒に「大丈夫か?」と聞きました。

幸い生徒は誰ひとり怪我をしませんでしたが、今思い出してもゾッとします。完全に栓をした試験管を加熱したら爆発する危険性なんて、少し考えればわかるはずです。しかしそんな考えにはいたらず思いつきの指導(もはや指導ですらない)をして生徒を危険にさらしてしまったのです。試験管の破片が目にでも入ればとんでもないことです。

授業後、辞職と教員免許の返納を考えるほど後悔しましたが、かろうじて管理職の先生にその後の対応について助言をいただき、あるいは尊敬する先生に励ましの言葉をいただき、また生徒に「本当に申し訳ない」と謝罪して持ちこたえました。

この思いつきのとんでもない指導をしてしまったことも、元をたどればこれまで「安全に観察・実験を行うためにはどうすればよいのか」という視点で予備実験を行うことを軽視していたからであると思います。子どもを危険な目に合わせるわけにはいかない、という思いで予備実験に取り組んでいれば、思いつきの指導をするはずなんてありません。

最後に

以上のように、私は中1理科の水上置換法に関する授業において、予備実験を怠ったためにとんでもない失敗をしてしまいました。

実は、上述した予備実験を行う理由、①「使用予定の器具で円滑に活動を遂行できるかどうか確認するため」、②「学習者がどのような操作でつまずくのか予測するため」、③「器具を操作する過程で危険な場面を事前に特定して学習者に安全指導を行うため」は、この失敗をきっかけに至った私の考えです。もしかするとどこかの文献で「予備実験の重要性」はすでに整理されているかもしれませんが、これら3つは、まぎれもなく私が今年、教育現場に出てから学んだことにほかなりません。

失敗は成功のもと、なんて言いますが、理科授業での失敗は時として生徒を危険な目に合わせてしまいます。上述の失敗以降、私は予備実験を怠ったことはありません。取り返しのつかない失敗になってしまっては、笑い話にもなりません。

本記事を通して、ひとりでも多くの方に「こんな失敗は絶対にしない」と思っていただければと思います。

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