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戦略と作戦 ~「知略の本質」と「エヴァ」から~

 ビジネスで「戦略」の重要性が言われ続けている。でも、そもそも「戦略って何?何を作ればいいの?」と考えれば考えるほどわからなくなる。そこで「戦略」を理解するために、その起源である戦争からヒントを得ようと、本「知略の本質」とエヴァンゲリオンを参考に戦略について書いてみた。

戦略はやはり重要

 戦争には、長期戦型の「消耗戦」と短期決戦型の「機動戦」がある。

 消耗戦において重要なのが、「補給」「戦略の進化」
第 2次世界大戦中、ドイツ軍は機動戦でヨーロッパを席巻。オランダ、ベルギー、フランス、ポーランドなどの各国を、「機動戦」であっという間に降伏させた。その後、モスクワ、スターリングラードまで、破竹の勢いで突き進んだ。
 当初、ソ連のスターリンは、「ドイツ軍は、西方のイギリスに対峙するため、ソ連には侵攻してこない」と甘く見て、準備を怠った。つまり、ドイツに対する「戦略」を誤った。それが、モスクワ、スターリングラードまでの侵攻を許すことになった。しかし、スターリンはその誤った戦略を見直し、「消耗戦」を覚悟した。ソ連の大後方である極東から、物資や予備兵をかき集め、補給を強化し、国民をも味方につけた。
 一方ドイツは、機動戦に頼りっぱなしで、「消耗戦」への戦略変更をしなかった。ドイツ軍への補給は滞り、-30℃の戦場でも、十分な防寒着、食料が補給されず、士気は落ちるばかりだった。ヒトラーは前線を見ず、現場を知らず、周囲の意見を聞かず、成功体験である機動戦からの脱却ができなかった。その弱ったドイツ軍を、進化させた戦略で逆転したのがソ連だった。
 結果、戦略をアップデートできなかったドイツの敗北で終わった。

 太平洋戦争の日本にも同じことが言える。太平洋戦争に突入するにあたって、唯一の、しかし脆弱な戦略は、「短期決戦でアメリカに局地的に勝利し、講和条約を結ぶ」ということだった。短期決戦の場として想定していたのが、ハワイやオセアニアの諸島で、米国本土を攻める意思はなかった。つまり、「消耗戦」を想定し、アメリカの補給源を断つという戦略はなかった。
 一方、日本は、南はオセアニアの諸島、西はインドに迫る広大な範囲にわたって兵を送り込み、周囲に味方する国もなく、補給は行き届かず敗戦に追い込まれた。
 まさに、過去の成功体験である機動戦にとらわれて、「戦略をアップデートせず」、かつ「補給をおろそか」にするという、ドイツと同じ轍を踏んでいる。


戦略、作戦、戦術

 この「戦略」という言葉がわかりにくい。ビジネスの世界でも最近多用されている。しかし、どこまでが戦略で、どこまでが戦術なのか、あるいは、何を定義すれば戦略を定義したことになるのかが、わからない。
 ここでは、エヴァンゲリオンを例にしてみる。時は、第6使徒ラミエルとの戦闘。

戦略:人類補完計画を進めるため、エヴァンゲリオンを持って使徒を殲滅する(特務機関NERVの戦略)

作戦:第6使徒ラミエルを殲滅するため、「ヤシマ作戦」を敢行。ラミエルの射程範囲外からのエヴァの超長距離射撃で殲滅する。

戦術:零号機に防御、初号機に射手を担当させる。武器は開発中の陽電子砲をネルフが接収。

 戦略がトップダウンだとすれば、戦術として現場から上がるものがボトムアップである。本書では、スターリンが戦略と戦術をつなぐ「作戦」という考えを取り入れた功績は大きいとした。現場レベルを肌身で知っているミドル層が、戦略次元の目的を意識しながら戦術レベルのシステム細部もおろそかにしない考え方を、「ミドル・アップ・ダウンの作戦術」と本書では呼んでいる。
 「ヤシマ作戦」は葛城ミサト三佐が発案、実行した作戦である。自身もコミットしているNERVの戦略の実現のためである。しかし、通常の戦術では、ラミエルの荷粒子砲と強力なATフィールドによる防御で、ダメージすら与えられなかった。その状況を打破する作戦、あるいは戦術が必要とされ、ヤシマ作戦を考案した。

 「作戦」という概念は、ビジネスで適用できる重要な考え方だと思う。作戦レベルの責任者がまさに中間管理職であり、企業戦略にも責任を持ち、現場の戦術レベルにも責任を持つ。「ミドル・アップ・ダウンの作戦術」が使える。社内では通常様々なプロジェクトがあるが、その「プロジェクト」をまさに「作戦」と呼ぶこともできる。さらに、作戦という概念は「プロジェクト」以外にも適用できる。
 我々がビジネスで考えることは経営戦略などの「戦略」の場合もあるが、「作戦」であることが多いのではないだろうか。「戦略を考えよう」と広すぎる意味の言葉を使って中身が発散するより、「作戦を考えよう、ヤシマ作戦のような。」といった方がわかりやすいし、その作戦の範囲と目標が明快だ。

 厨二病を覚悟して、会社内の名もなきプロジェクトに名前を付けると面白くなるかもしれない。営業目標を達成させる作戦、開発目標を達成させる作戦、部下のモチベーションを上げる作戦など、名前の付け所はたくさんある。
 有名な作戦名としては、「ヤシマ作戦」のほか、ドイツがソ連に侵攻した際の「バルバロッサ作戦」、湾岸戦争時のアメリカ軍の作戦「オペレーションサンドストーム(砂の嵐作戦)」、東日本大震災の際のアメリカ軍の「トモダチ作戦」などがある。スターリンはドイツ軍の包囲に当たっては「土星作戦」、「火星作戦」など、惑星名を付けていた。
 


以下余談

マイクロマネジメントの弊害

 ヒトラー、スターリンとも、本来は部下が仕切るべき戦局判断に口を出し、マイクロマネジメントしていた。ただ、スターリンは追い込まれてから、人の話を聞くようになった。
イギリスのチャーチルは、ドイツとの戦い、バトル・オブ・ブリテンにおいて、多くの権限を下級司令官に移し、必要な人材や資源も、軍団司令部から各地の群司令部に移した。部下の能力を生かしたスターリンとチャーチルが最終的に戦争に勝ち、自分の能力しか信用せず、人の話を聞かず、現場にも行かなかったヒトラーは、戦争に敗れた。
 太平洋戦争時の日本、日本軍には、マネジメントがあったのだろうか?いや・・・。

 バトル・オブ・ブリテンにおいて、チャーチルの取った戦略は極めて明快で、論理的であった。つまり、ドイツ軍が上陸できない冬になるまで、制空権を失わない。ということであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。もちろん、作戦レベルでの失敗はいくつかあったようだが、確実にアップデートし修正した。戦略の立案、実行には、リーダーの資質も問われる。


知略の本質

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