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むこう側から見た世界

はじめに

作品をご覧いただきありがとうございます。約1年間悩み続けながら作ったものを世に出すのはとても勇気が必要でしたが、沢山の方にご協力いただき完成した11点の作品です。こちらの記事では、制作にあたり考えたことを綴っていきます。ぜひご一読いただけますと幸いです。

〈Parallel View/むこう側から見た世界〉

目の前で起こる出来事
感じられること

それが現実か虚像かは問題ではない。
なぜなら現実は不確かでコインの表と裏のように簡単にひっくり返ってしまうからだ。

人の数だけ認識の違いがあり、異なる角度の世界で生きている。
ただそれがどうなっているのか確かめようとすること、それだけは確かではないか。

向こう側から見た世界はどこかおかしい?
アンビバレンスな世界へようこそ


【卒業制作にあたって】

私の中でこの作品は一体何なのだろうか?
"むこう側から見た世界"って抽象的なテーマだと思うし、個人的すぎて共感を得ることはできないかもしれない。
ただ一言で言うなら、皮肉を込めた希望なのだと思う。

今の社会は普通でいることが求められすぎている。かくいう私も幼い頃から当たり前に完璧を求められ、その期待に応えようとしてきた。
自分の弱点はできる限り克服してきたと思うし、そのおかげかなんでも卒なくこなしているように見えるらしい。
ただ、それは自己否定を繰り返して周りがイメージする「私らしさ」を演じてきたからに過ぎない。

しかし、実はそんな自分の生き方にずっと息苦しさを感じてきたのだということに気づいた。

自分はこの世界に受け入れられていないような、そんな感じ。
そして今そんな自分を一番、私自身が受け入れることができていないのだと。

「気にしすぎ、繊細すぎる」
物心がついた時からそう言われてきた。
これは生きてきた環境や元来の気質によるものなのだろう。

些細な音や光に敏感で、調和の取れていない色彩空間の中にいると鳥肌立つ。周りの人の空気が自分の中に流れ込み、自分の感情が同期する。夢の中でも現実を反芻し、ピンチアウトする景色がどこまでも350dpiなのも…
これは25年生きてきて、どうしようもないことだ。感じ方は変えられない。
私のセンサーは常に振り切れていて、それは時にストレスとなり私を混乱させる。

そして高精細な情報で容量がいっぱいになってしまった時、途端にすべてがひっくり返る。

景色は立体感を失い、輪郭は歪み他者との境界が危うくなる。全ては作り物のように感じられ、何も感じなくなる。意識は離れ、残された身体はただのゴム人形のようで。鏡に映るのは自分に似た誰か、そんな感じ。
私をこの世界に繋ぎ止めておくものは昨日までの記憶だけなのに、それすら夢か現実か疑ってしまう。

感覚から解放される安堵と、世界から隔絶される不安に苛まれる。
それまで普通にできていた呼吸が意識した途端、息が吸えなくなるような。

これらが固有の感覚であると気づいた時、私は純粋にその正体を知りたかった。制作テーマに個人的課題を選んだのは初めてで、私自身をクライアントとして客観的に眺める必要があった。

新しいカテゴリができた時、外側にいる人たちからすれば一定の理解は得られる。そして共感することで安心する人たちもいるけど、私は適応できない自分に絶望したから。

リサーチや制作をする中で、浮き彫りになっていく生きづらさ。
「普通になりたい」
焦燥感に駆られる日々を過ごした。

一方「普通」とはなんだろうという疑問も湧いてきた。大多数が定めた普通に当てはまらなければ異端扱いされてしまうけれど、そもそもみんな少しずつ違う世界で生きているのでは...ただ理解が及ばないだけで。
隣に立つ人と同じ景色を見ていても、視点が違えば全く違うものに感じられる。画一的なものの見方は多様性とは程遠い。

そして実際、高精細な情報の波に圧倒されてしまう私もペラペラの世界で生きていく私も、想像や妄想でなくどちらもここに存在している。

現実は主観を通して人それぞれ存在していて、私はただ、写真を撮る時のように少し離れて後ろにずれることでピントを合わせているだけなのではないか。

少し歪な形でも、誰もがありのままの自分を、他者との違いを受け入れることができたら。そんなささやかな願いを込めて制作を続けてきた。

この作品群は、少しズレた世界で生きる私の視点。これがあなたの目にどう映るかは分からない。けれど、私の世界があるようにきっとあなたにも違う世界がある。 

人は他者を完全に理解することはできない。しかし、それを理解することがコミュニケーションを図り続けることにつながるのではないだろうか。

今一度あなたの生きる世界も観察してみてほしい。 
現実は人それぞれだけど、不確かな現実を確かめることだけは確かなのだから。

If I had a world of my own, everything would be nonsense.
And contraywise,what it is,it wouldn't be,and what it wouldn't be, it would.
You see?   ルイス・キャロル〈不思議の国のアリス〉より引用

撮影に協力していただいた皆様、相談に乗って下さった先生方、本当にありがとうございました。

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