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いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう 第一話

2021年4月、脚本家・坂元裕二さんの新作「大豆田とわ子と三人の元夫」が始まった。それと同日の深夜にこっそりと「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の再放送も始まったのだ。いつ恋が初めて放送されたのは、2016年1月。約5年という月日が経った今だからこそ書けることがあると思い、この作品について書くに至った。

【はじまり】

アスファルトから咲いている花から物語は進む。

音「ブドウの花はブドウの味がする。バナナの花はバナナの味がする」

そして、この台詞は繰り返される。

第一話では、音は、幼少期から北海道での生活が中心となって描かれる。母を幼い頃に亡くし、北海道の林田さんの元でお世話になる。杉原音という名前、関西弁、そのどれもが否定されてしまう。音の気持ちを抑えつけられてしまう。しかし、それに反して音はどこかに杉原音が残している。それは、この台詞も関西弁混じりに発していること、練と話すときに見え隠れする関西弁や歩くのが早いことなど細部で現れる。そう、北海道にいる音は、杉原音と林田音が混ざっているのだ。

一方で、練は、東京で引っ越し屋として働いている。そこに一枚の手紙が届く。音の母から音へ向けられた手紙が練に誤送されてしまう。そして、この手紙は音の母の意図しないところで練の心を突き動かすものになる。その結果、この手紙を音に届けることをきっかけに物語が進んでいく。また、これを手助けしたのが、晴太なのだ。練に無意識とはいえ手紙を届けたのだ。

【お金】

いつ恋では、お金は人物を映し出す小道具として作用する。お金は生活に直結している。お金を使い続ける限り、お金の呪縛からは解放されない。特に、生活水準による貧富の差、どのように使うかが意識的に描かれる。(坂元さんは、いつ恋から2年後「anone」で更にお金について描くことになるのだが…)

練は性格から生活に至るまでが見事に表現されている。
木穂子ちゃんから一万円を貰うことに違和感を覚える。
晴太が二千円を置き引きしたことに罪悪感を抱く。
佐引達にご祝儀で貰ったお金は獲られてしまう。そして、柿谷社長からは積み立てという名目で給料から天引きされる現実。

一方で、音は、財布の中に2060円が入っていることを把握していることで、毎日お金を切り詰めて生きていることがわかる。
練から2100円貰うと律儀に40円を返す誠実さ。
それとは対照的な存在として白井が登場する。音は白井によって買われるのだ。音が白井に生活が厳しいシングルマザーに三万円貸したいと言うが、高給取りの白井は、シングルマザーに対してこのように言う。

白井「後先考えずに子供産んだ人なんて、甘やかしちゃダメだよ」

音に自分だけ傘を差して貰って、音が雨に濡れていることに気付かない。小学生に向かってクラクションを鳴らす。など我慢してきた音だったが、その一言は自分の母を否定されたように感じて、許せなかった。その後、苦しい生活をしているにも関わらず、音は3000円をシングルマザーの方のポストに入れる。

【手紙】

音「泥棒!」
練「引っ越し屋です」

音の涙が雨となって激しく降り注ぎ、今まで我慢してきたことが土砂崩れのように崩れて、叫びがサイレンとして鳴り響く。泥まみれになり、靴がなくてもマフラーを落としても構わず走る。見つけた光に向かって走る。トラックのヘッドライト向かって走る。未来に向かって走るのだ。音にとって練は、ここで初めて引っ越し屋として機能するのだ。

そして、車内の揺れでダッシュボードが開く。あの手紙が過去から届いたのだ。練の言った通り、音にとってこの手紙はつっかえ棒なのだ。音と練は同じ手紙を見て同じような想いを抱いていたことになる。

母「恋をすると、嬉しいだけじゃなくて、切なくなったりするね。きっと人が淋しいって気持ちを持っているのは、誰かと出会うためなんだと思います。時に人生は厳しいけど、恋をしてる時は忘れられる」

そして、私達視聴者も「ブドウの花はブドウの味がする…」が音の母からの手紙の一節であることを知ることになる。子供の頃は、この言葉の意味をその通りに取っていた音。しかし、ここでこのセリフの本当の意味が浮かび上がってくるのである。

母「葡萄の花は葡萄の味がする。バナナの花はバナナの味がする。愛するって、心から心へと残していくことだと思う。桃の花は桃の味がする。音が笑ってる時、お母さんも笑ってる!音が走ってる時、お母さんも走ってる!大好きなわたしの娘。大好きな音。愛しています。どうか幸せに。母より」

それを乗り越え、トラックは光の方へと進むのだ。

ここまで厳しい現実を目にした我々は冒頭あのアスファルトから咲いている花は音を表していることに気付く。

【さいごに】

坂元作品らしさは、以上挙げたほかにも様々な要因が重なり生まれている。例えば、敬語、クリーニング屋、ファミレス、花、食べ物、ファッション、シングルマザー、孤児、暴力、悲しみ、切なさ、恋、片想い、細かい仕草、石を投げること、満島ひかりさんなどだ。

坂元作品はどこかで繋がっている。1話を点、それが繋がり線となったものが作品ならば、坂元さんの執筆された作品同士も実は繋がっている。点は繋がり線となり、線は回って円になっている。つまり、いつ恋以外の作品も観ると更に坂元作品の世界観を楽しめる。

東京で「杉原音」として生きていく決意をした音。今後どのように物語が展開していくのか見届けたい。

私は、坂元さんのオリジナル作品をほとんどすべて拝見しています。
その中で得ることができた知見や情報を発信していきます。

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