リトアニアと中国の貿易摩擦、世界経済の教訓に興味深い真実を浮き彫りにする小国と大国の対立


中国はドイツの重要な貿易相手国だ(写真は独バイエルンにある工場)PHOTO: KARL-JOSEF HILDENBRAND/ZUMA PRESS


By Nathaniel Taplin

2022 年 7 月 13 日 15:06 JST

――投資家向けコラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

***

 国際関係は現在、旧約聖書の「ダビデとゴリアテ」の逸話のように小さな者が大きな者に立ち向かう物語に溢(あふ)れている。その最たる例が、ウクライナとロシアだ。しかし、最も興味深い物語の一つは、米国ではあまり知られていないが、世界経済に対する教訓をはらんでいる。

 欧州連合(EU)加盟国で旧ソ連の衛星国であるバルト海沿岸の小国リトアニアは2021年半ば、台湾が「台湾」の名で現地に代表事務所を開設することを認め、中国をいら立たせた。台湾と友好関係にあるが正式な関係をもたない国のほとんどは長年、中国を刺激しないよう代わりに「台北」を使用している。中国は、台湾を自国の一部だと主張している。そのため中国は2021年後半、リトアニア製品の輸出入を制限。最終的に、リトアニアを経由するサプライチェーン(供給網)も標的にした。

 この物語のこれまでの展開は、地政学的緊張が高まる時代における国際貿易システムの強みと弱みの双方を浮き彫りにしている。

 中国のような世界的な巨人であれば、リトアニアのような小物をこらしめるのは簡単だと思うかもしれない。リトアニアの2021年の国内総生産(GDP)は、中国のわずか0.4%程度だ。中国は、リトアニアから中国への輸出を非公式に阻止し、リトアニアの対中輸出は2021年9月から22年3月にかけて約80%急減した。しかし、実際のところ、この中国の最初の対応は、比較的効果がなかった。

 中国は、ドイツをはじめとする欧州の主要国にとっては重要な貿易相手国だが、リトアニアにとってはそうではない。2021年に緊張が高まる以前から、リトアニアの直接的な対中輸出は全体の1%程度に過ぎなかった。投資についても同様だ。中国は巨額の対外投資を行っており、昨年の直接投資額は1450億ドル(約20兆円)に上った。しかし、その大部分(2020年は1120億ドル)はアジアのほか、香港経由で中国本土に投じられている。中国の2020年の対リトアニア投資残高はわずか2800万ユーロ(約39億円)と2015年から70%増加したが、リトアニアへの国外からの直接投資全体の1%に満たない。

 とはいえ、中国に全く影響力がないわけではない。

 ロイター通信や英紙フィナンシャル・タイムズなどの12月の報道によると、自動車部品大手コンチネンタルをはじめとするリトアニアの独メーカーは、同国と関係を絶つよう中国から圧力をかけられた。リトアニア製の部品を含むドイツの対中輸出品は、中国の税関で阻止された。中国からリトアニアへの商品や原材料の一部輸出も妨害された。最終的にEUは中国を世界貿易機関(WTO)に提訴し、影響を受けたリトアニア企業に対する1億3000万ユーロの融資制度を発表した。しかし、リトアニア政府は明らかに動揺し、同国大統領は1月初旬、代表事務所の名称に関する判断は誤りだったと述べた。

 この対立の展開は、他の貿易摩擦と興味深い共通点がある。敵対国の直接輸出を標的にして相手に変化を強いる最近の試みは、比較的効果がないことが多い。トランプ前米政権の対中貿易関税や中国によるオーストラリア産ワインに対する反ダンピング(不当廉売)措置、欧州によるロシア産原油のボイコットなどがそうだ。その一因は、多くの輸出が代替可能な点にある。米国の対中関税は直接輸入を抑制したが、中国の輸出全体としては首尾よく持ちこたえ、単に他国に流れただけに過ぎなかった。欧州のロシア産原油に対する制裁は、ロシア産原油に値下げを強いたが、世界的な原油価格を高騰させ、影響の大部分を薄めることになった。

 しかし、国際的なサプライチェーンの重要なリンクや構成要素を標的にした方が、はるかに効果的であることが証明されている。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は、米国の半導体禁輸措置によって徐々に苦境に追い込まれている。ロシアの自動車メーカーもそうだ。同様に、対中直接輸出の少ない小国や小企業は、中国がサプライチェーンの下流にいる彼らの直接顧客を脅したり、重要な材料や部品を差し止めたりする手段を見いだせば、中国の圧力に非常にさらされやすくなりかねない。

 リトアニア政府は今のところ、引き下がることを拒否している。その姿勢を支えているのは、EUや米国、台湾からの資金援助と、リトアニアからの撤退を検討している西側の大手企業に対するイメージダウンの可能性だ。西側諸国にとって、結束は経済的な威圧をかわす助けになる。主要な世界の技術サプライチェーンに対する支配的な地位もそうだ。将来そのどちらかが損なわれれば、民主主義の先進国は大小を問わず、互いにはるかに異なる路線を歩むことになるかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?