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【創作小説】「肉屋の正義の味方」(置き引き犯)

この頃、ここじゃ参ったもんだ。
この商店街の近くにも、ちょっとしたスーパーが出来て、商店街の売り上げを邪魔してしまってる。

お客の大部分は、あちらのスーパーへ。

けれど、ここの商店街の肉屋の女主人は、隠れた正義の味方なのさ。

柔道4段。オリンピックにぎりぎり出そうな腕前の持ち主で、曲がったことが大キライだった。


公園で、子供の泣き声がする。
砂場で泣き虫の翔くんが、ここらで幅を利かせる慧(けい)くんに、(泣きやめ!)、(泣きやめ!)と、せめられている。
けれど、せめられたって、泣きやむもんじゃない。
なにせ、子供のことだから、どうやったら泣きやめさせることができるか、慧くんには、わからないのだ。
翔くんは、2才かそこら。乳幼児をやっと卒業するころ。慧くんも、そのくらい。そこへ、肉屋の正義の味方ーー大沢津久子が、通りかかった。

通常なら、2人が喧嘩をしていて、一方がイジメているように早とちりしたかもしれない。けれど、津久子は、決めつけることはしなかった。慧に、なぜ翔が泣いているのか訳を訊いた。
慧は、説明がたどたどしながらも。
「泣きやんでくれないんだ」
と、言う。
「どうしたの?なにがあったの?」
慧は、説明できない。
ま、しようがない。まだ2人共2才ほど。説明する方法が分からない。
「なにか、慧くんは翔くんに悪いことした?」
慧は首を横に振る。
「なら、慧くんは、悪くないね」
慧は、津久子を見上げて ニコッ、とする。
翔に、自分が懐に持っていた、ピカチュウのぬいぐるみを持たせて、あやしていると、うしろの街道を、たたたたたっ、と走る者がいる。

「ドロボー!!」

津久子は、すぐに反応した。

誰かの声が、
「ドロボーよ!置き引きよ!誰か捕まえて!!」
と。
津久子は、振り返り、
「あたしに任せな!」

津久子は、すぐに公園を出て走り、追い掛けて、街道をダッシュしていく。
斎藤さん宅の角を曲がり、生け垣の向こう、信号を渡ってしつこく追い掛けていく。やがて、ふん縛ると、ぶんと軽く投げ技を加えた。

(うっ……!)

と、叩きつけられた置き引き犯。

「大人しくしなさい!大人しく捕まらないと『ミンチ』にしたるよ!!」

そう、津久子は、サクラ商店街で評判の「正義の味方」だったーーー。



              つづく

トップ画像クリエイターは、
      稲垣純也さんです
    ありがとうございます🍀

©2023.7.27.山田えみこ


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