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【創作小説】肉屋の正義の味方(リフォーム詐欺②)

前回⬇

サクラ商店街の肉屋の正義の味方、大沢津久子は、柔道4段の腕前の持ち主。

彼女は、近隣で、不埒者を見かけると、柔道技を掛けてふん縛って「大人しく捕まらないと『ミンチ』にするよ!」と、雄叫び(雌叫び?)をあげて捕まえる。

しかし、近所のいつも残り物をお裾分けしている一人暮らしのお婆ちゃんに、ある事件が起きた。


そのトヨお婆ちゃんは、リフォーム詐欺に引っ掛かったらしい……。

「トヨ婆ちゃん、そのリフォーム会社の人達は、今日、来るの?」
「いや、もうあちこち直して『終わった』とかで、お金もらって引き上げたよ」
「え……」
婆ちゃんは、続ける。
「聞いてよ、300万も取られたんだよ?ぼったくりだよ!」
「婆ちゃん……、それ詐欺かもね?」
津久子は、冷や汗を流し、
「会社の契約書は?」
婆ちゃんは、はっとし、居間から書類を持ち出した。
「これこれ、ここ」
(○☓工務店 代表□□ TEL………)

早速掛けてみた。
(トゥルルル……、トゥルルル……、)
しかし、繋がらない。

何度掛けても、時間をずらしても繋がらない。

書類にも、定休日はこの日は該当なし。まだ、昼。

やはり、詐欺だ……

トヨ婆ちゃんは、がっくりと肩を落した。
それだけのお金は、トヨ婆ちゃんが、独りで1年以上暮らせるお金だ。それも、楽に。
人が、1年以上暮らしていけるお金が、どれだけのものかというのが分からないのか。
トヨ婆ちゃんは、歳で足腰が悪いから、もう働くことは出来ないし、1年以上働くことが出来るとしたら、その労力は如何程か分からないのか。
1年以上タダ働きさせられたときと同じ損失だということだ。それだけ、失ったのだ。
人は、喩え話なのだが、1年もタダ働きできるのだろうか……

「ドロボー……」

トヨ婆ちゃんは、うつろな目で言った。

後日、警察に連絡して、担当の警官がやってきたが、リフォームした跡をみると、やはりズサンだった。床下や、屋根をデタラメに直し、昨日の雨で、屋根からは雨漏りがしていた。トヨ婆ちゃんは、頭を抱えた。
「また、大工さん、呼ばなきゃならないのかね?」
津久子も、警察の者もそれを見て何とも言えない気持ちになった。

そして、しばらく経つ間、トヨ婆ちゃんは、すっかり人間不信に陥ってしまい、家に誰かが来ても上げなくなった。誰が来ても、心を閉ざし、朗らかだった性格がすっかり陰気に、そして 誰も信じないようになってしまった。
玄関からのぞかせる顔は、かつての明るいにこやかな恵比寿顔ではなくなり、もう、老人らしい、年輪を感じさせ、人を癒やすこともなくなった。

津久子は、リフォーム会社の人たちを探し続けた。顔は覚えている。
時間を見つけては、街をうろつき探し回った。



             つづく


©2023.7.29.山田えみこ

トップ画像は、
メイプル楓さんのイラストです✨✨
いつもありがとうございます🙇

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