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【創作小説】私の好きでも嫌いでもないこの季節⑨

今までの話は、こちらに収録されています⬇

「ワタシ丿 オトウサン オカアサンハ
イイヒトタチ デシタ……」

カムフェンは、喫茶「オリジン」のカウンターの向こうで、私のコーヒーを作っているとき、いきなり身の上話を始めた。

意外だ。
この人は、アブナイ人だろうか?

「私は、大人になったら大学へ行くため、小さい頃から、出家させられたのです。そうすることで費用が出来ます。ラオスでは、よくあることです」
(*作者より : ここから、都合上カムフェンの言葉の表記が変わります)。

「けれど、父母は、私が大きくなる頃には、他の兄弟たちの多くを亡くし、私へかけるお金は有り余っていました」

私は、何故かカムフェンの打ち明け話を黙って聞いていた。

なんか、惹き込まれる。
そして、気の毒に思う。
ご兄弟を亡くされたの?
それから……?

「大学へ、私を入学させた両親は、私が将来、政治に関する仕事をしようとしていることを知り……」

(へ……? )

「大学を出たあと、私の世界一周を認め、応援してくれたのです」

(は……? )

な、なんか、話が違う。ちょっと、いきなりの情報量で、私はパンクしかける。

私は、思わず怯みながらもそのあと、カウンターに身を乗り出して、
「そ、そう……。ご兄弟を亡くされて、カムフェンさんの夢にかけるお金が出来たのね? ご両親は、それを応援されて……」

営業で培った、話を素早くまとめ、会話を繋げる術を発揮する。

「……、で、世界一周を? 」

カムフェンは、嬉しそうに微笑む。そして、続ける。

「あなたに会って、暫く経ったころ、あなたに話したくなったのです。あなたは、いつも私を見ている。懐かしそうに……」

私は、またも絶句して聞いていた。

「なぜ、懐かしそうに、私を見ているのか、聞いてみたかったのです。あの保育園児たちが、歩く道で。あなたとすれ違いながら」

私は、……私は、そのあと言葉が出なかった。

暫くチャコとカムフェンと話したあと、私は、喫茶店を出た。

あとの話は、パンクして入って来なかった。



菜の花が、咲くころ。

私は、国道沿いを独りで歩いていた。
カムフェンは、私を見かけ、そして、彼も、私をずっと気にしていたのだ。

私が、そうだったように。
私が、スズカケの木を見上げるカムフェンを見つけたときそうだったように……。


            つづく


*この話は、全くのフィクションです。
 不定期に投稿します。


©2024.3.27.山田えみこ








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