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なにもない1日限りのレストラン

先日お誘いいただいた素敵なディナーの話を少し。


はじめに

「梅雨入りした割に降らないね」なんて挨拶を交わしていた6月のなかごろ。COCO COFFEEの店主からとあるお誘いをいただいた。

「急なんですが、今度新しい店舗のeiで、なにもない1日限りのレストランをすることになりました」と。

eiといえば、4坪の店から始めた彼女が最近新たに借りることになった新店舗、のスペース。まだなにも工事していない空っぽの状態のはずだ。そこで…レストランを??ちょっと理解はできていないけど、なんだかおもしろそうな香りがして二つ返事で参加を申し出た。

この日この時だけの風

当日は、雨が降らない梅雨独特の蒸し暑さ。20分ほど歩いて到着したためじんわりと汗をかいた状態。暑い。少し早めに着きそうだから何か手伝おうかと思っていたが、到着したら誰もいなかった。え。

しかし秘密基地に入れてもらったような高揚感で、すでに楽しい。そうこうしていると店主、シェフ、その日のゲストたちが続々と到着。ゲストできていた窓職人が「ここ開ければ風が通るから」と言っていくつかの窓ガラスを外した。すると、さっきまで蒸し暑かったのが嘘のようにどんどん涼しくなっていく。

そして、一変したのは温度だけではなかった。窓ガラスが外された窓枠が、まるで額縁のように現れたのだ。染まりゆく空と二上山のコントラストが、この日のためにあつらえられた絵画のようだった。

この日は夏至の前日、一年でもっとも日が長い季節だ。集合した18時半から、ゆっくり暮れていくのと同時に心地よい風が入る。クーラーも照明もろくにない、灯したキャンドルの灯りが手元を照らす。"なにもない1日限りのレストラン"の準備は整った。

この日この時だけの食事

なにもない空間だが、とても素晴らしい食事とワインが用意されていた。ソムリエールが選んだスパークリングワインが始まりの合図だ。

料理は、この日のための特別メニュー。キッチンは、出窓と簡易台の間に板を渡しただけの調理台に、カセットコンロが2つ。それだけだ。それだけのはずなのに、旬を味わう多彩な料理の数々がどんどん出来上がっていく。メニューリストに料理名は表記されておらず、食材の名前だけが並ぶ。それがまた想像力を掻き立てる。
そして、この食事のためにセレクトされたワインたち。これ以上、他に必要なものってあるの?

この日この時だけの絵画

私たちは思う存分その時間を楽しみ、たくさん話した。料理のこと、ワインのこと、お互いのこと、COCO COFFEEのこと。食事が始まる前は、これから何が始まるのかという期待と、初めましての方もいたりして少しそわそわした雰囲気もあった。しかし気がつけばいつものCOCO COFFEEにいるような、リラックスした暖かい空間になっていた。

誰かがこの日のことを“最初の晩餐”と呼んだらしい。私たちはこの日、二上山をあつらえられた絵画のように眺めていたが、もしかすると二上山からは食事を楽しむ私たちの姿が絵画のようにみえたのではないか。私たち自身が“最初の晩餐”という静かな高揚感をまとった絵画になれたのかもしれない。



あとがき

終わってみれば、なにもないレストランなんかじゃなかった。むしろ必要なものはすべてそこに集まっていた。

新しいことを始めるのはとても大変だけど、とても楽しい。オトナになるほどその“とても”はたくさんの意味を含んでいることを知る。それを知っているゲストたちの集まりだった。主催された店主とシェフへのリスペクトがあり、その逆も然り。食事もワインも人も、そこにあるすべてが主役になった時間だった。最高。

あと、ここに載せさせてもらった画像は、当日来ていたゲストのカメラマンさんが撮ったもの。あの限られた灯りの中(過酷な現場)でこんな素敵な写真が!と驚いた。このnoteを書こうと思ったのも、画像を見せてもらったのがきっかけ。わたしの拙い文章では伝わらないかもしれないけど、この画像を見てもらえば100万倍伝わるはず。素敵なお写真をありがとう、Special thanks to ゆうちゃん。

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