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香りの物語 香あそび~薫物の始まり~

香りをご案内するのに、読み物があったほうがいいのかな、と思って「香りの物語」シリーズを始めます。

1.楽しみとしての香

香りを調香する技術は奈良時代、鑑真和上とともに日本に来ました。鑑真和上についてはまたどこかでご紹介しますが、唐招提寺の薬師所が最初の調香所となりました。最初は薬の一つとして。また香りは、宗教儀式のために使用していました。そんな香りを貴族たちは自分の楽しみとして調香し、部屋にたき、もしくは着物にたきしめることによってオリジナルな香りを楽しむようになりました。
どのくらい大事にされていたかというと『枕草子』の有名な部分、「こころときめきするもの」から見てみましょう。

「心ときめきするもの。雀の子飼。ちごあそばする所のまえわたる。よき薫物たきてひとり伏したる。唐鏡のすこしくらき見たる。よき男の車とどめて案内し問はせたる。頭洗い化粧して、香ばしう染みたる衣など着たる。 ことに見る人なきところにても、心のうちはいとをかし。待つ人などある夜、雨の音、風の吹きゆるがすも、ふと驚かる。

『枕草子』

良い薫物をたいて一人で楽しむ、とか香りのついた衣を着る、などの香りの楽しみ方が書いてありますね。『枕草子』は清少納言が人生をかけて書いた「素敵なものさがし」であると仮定するなら、そのくらいの「素敵」位置に香りはあった、ということです。この段以外にも後朝の文に香をたきしめたいい匂いの紙で送る、などの記載もあって、平安時代の貴族たちがどれほど香りを大切に思っていたかがわかります。

2.平安貴族と薫物

当時の薫物というのは香木を含む香原料をまぜ、梅肉や炭、そして甘葛(あまずら)で練り固めた丸薬状の香です。香木の輸入が正式には(遣隋使)遣唐使から始まったわけですが、その製法も中国から入ってきています。最初は仏教の儀式で使われていたそれを嗜好品として使用するようになったのは平安時代の貴族たちです。
香木も香料も基本的には日本で産出しません。それを自由に使用できたのは当時の権力者でした。ですから最初は天皇や上皇が作ってそれを臣に下賜していました。だんだん入荷が増えたり、持っている人が増えてくると「自分でも作ってみよう」という貴族が出たり、「あの人はすごくいいのを作る」といったカリスマ調香師なんかが出てきました。

そうなってくると、「我が家の秘伝」とか「代々伝わっているものをアレンジしすぎるのはいかがなものか」とかいろい出てくるのは世の常ですね!!
秘伝の薫物や、これこそ伝統の薫物、あとはなんですかね、元祖薫物、本家薫物なんかも出てきてみんな大混乱。
それを整理分類して大きく六種にわけました。それを「六種(むくさ)の薫物」と呼びます。

六種の薫物については、また次回。


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