1章-(8) 圭子となんとかなる!
上級生のいたずら騒ぎで入寮一日目は、ホームシックになどかかるひまも なかった。
瀬川さんのへやでの慰労会では、上級生たちの自己紹介があり、掃除当番の組み合わせ順番を聞かされた。これからの1週間は、廊下、洗面所、トイレの掃除の仕方を、2年生に教わることになった。まず最初に、香織は瀬川班長に洗面所を、直子は中山さんにトイレの掃除を教わることになった。
「来週は、食器洗い当番だから、エプロンは用意しておいてね。かえで班の週番当番は、5番目に当たることになってるから、ずっと先になるわ。週番といっても、朝と放課後から黙学時間までね。クリーニング屋や牛乳屋さんが、特別に頼んだ人に、届けに来たり、寮生の身内の人が訪ねて来ることもあるの。それと、電話の取り次ぎが多いわね、相手の人が出かけてたりしたら、伝言を書いて、ドアにはさんであげるの。1年生は教わることが多い けど、すぐに慣れるし、たびたびではないし、それほど大変じゃないのよ」
と瀬川さんは、にっこりしめくくったけれど、香織は、寮の当番がいろいろあるのだとわかって、規則を守るより、大変そうだと思った。
「ただね、当番の朝、6時起きが大変なのよ」と、3年生の村上さんが実感こめて言ったので、皆が笑ってうなずいた。
「そうよね、つい夜更かししたような時は、よけいにね」と、小田さんも つけ加えた。
この会は、9時過ぎに終った。香織は9時半に先生のへやへ向かう前に、 野田圭子に電話をかけておきたくなった。
「学校の方、どうなってる?」と訊いてみたいのと、「なんとかなるよね」と、確認し合ってから、江元先生に向き合いたかった。何を言われるのか、見当もつかず、不安だらけだったのだ。
野田圭子は受話器を取ると、すぐに声を上げた。
「オリ、元気してる? 私も話したかったの、電話くれてうれしいっ!」
圭子のはずんだ声がした。よかった、元気そうだ、暗くなっていない!
「オリ、あのね、私1年 B 組の男女クラスで、担任は若い男の先生でさ、 いい感じよ。電車乗り換えで時間かかるけど、ここへ入れてよかったぁ、 て思ってる」
「よかった。それ聞いて、うれしい。私の方が望み通りの清和に決まって、圭子に悪いなと思ってたから。でもね、今日寮に入ったけど、ひどい規則 ばっかし15もあるの・・」
「ええっ、規則がそんなに?」
「そうなの。その話したいけど。私、9時半に寮監先生に呼ばれてて、あと10分くらいしか話できないから、今度、教えてあげるね。上級生におどされたり、寮が停電になったりしたんだよ。こわかったけど、電気がついて みたら、全部上級生のいたずらだったって、わかったの。それが歓迎会らしいの」
香織にしては、めずらしく早口の長話をしてしまった。いつもは短く圭子の4分の1しかしゃべらないのに。
「へえ、面白そう。でも、いたずらで、歓迎会だったのなら、よかったじゃない。私の学校は、すっごく自由だよ。制服ないし、髪も靴も靴下もカバンも、何でもいいの。下駄をはいてきた男子がいて、びっくりした。その うち、浴衣で来るかもね」と圭子。
浴衣には、2人で吹き出してしまった。
圭子は3日後に実力考査があるんだって。香織はまだいつあるのかは、聞かされていない。圭子は不満そうにぼやいた。
「入学試験が終ってやれやれなのに、ウザいよね、また試験なんて」
圭子はそう言った後で、
「でもさ、なんとかなるって。少々悪かったって、もうこの学校に入っちゃってんだから、こっちのものよ。入学金は払ったし、後はなんとかなるって!」
と、決まり文句の呪文で締めくくってくれて、香織も
「そうよね。私はあしたが入学式で、何クラスになるのか、担任がだれだかわからないけど、もうここにいるもんね。なんとかなるって思おうね。 じゃあ、またね」と返して、電話を切った。
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