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(113) 峠道

ヴォーンとバイクの音が、峠道の木立の間からとどろいて、進たちの待つ広場に近づいてきました。カーブを曲がって、一台また一台と革ジャン仲間たちが、姿を現します。

「今度はオレたちの番だぜ」
進が立ち上がって、革手袋をはめ、ヘルメットに手をかけようとした時でした。めったに通らない車が一台、うねうねと続く坂道を上がってきました。

その車の窓に小さな男の子が、顔をくっつけるようにして、進とバイクを見ています。ヘルメットを手に、進も顔を上げて見返すと、車が突然止まって、運転手が窓を開けました。

「おう、山崎じゃないか」
「あ、林先生」
「寒いのに元気あるなあ。免許とったのか」
「はあ、春休みに」
「予備校の方はどうした?」
「難しくて・・」
「やめたのか。息抜きに遊ぶのはいいが、毎日がこれじゃ、キリギリスになるぞ」
「毎日じゃありません」
「勉強してるんだな」
「はあ・・まあ」
「在宅浪人は辛いよな。ときどきは学校へ顔を見せろ。待ってるからな。時間を大事にしろよ! じゃあな、元気でいるんだぞ」

男の子の笑顔とバイバイを残して、車は山の陰に消えて行きました。


IMG_20211111_0002峠道


仲間がどっと寄ってきて、口々にいいました。
「毎日じゃないってよう」
「はは、こいつ、勉強してる気だぜ」

進はヘルメットの中で、にやにやしました。うらやましんだよな、皆。あんな風に、声かけてくれる人は、めったにいないもんな。

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