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14-(2) ピーター・パンて?

マリ子のまわりで、またいっせいに質問がとんだ。

「それ、なんじゃ?」
「知らんで、そげなの」
「パンて、食うパンか」

見当はずれなのは、みんなあまり本を読むことがないからだ。マリ子は 〈本の虫〉のお兄ちゃんのおかげで、名前だけは知っていたが、どんな話 なのかは知らなかった。

「だれか読んだことのある人?」

先生は古くて厚い本を持ち上げて見せながら、みんなを見まわした。手を 上げたのは、やっぱり三上裕子ひとりだった。

「ほんならすこうし話してやってくれんか?」

裕子はうなずくと、半立ちになって話始めた。

「ピーター・パンは、ずうっと大人にならない男の子でな、ネバーランド という楽しい島に住んどって、空を自由に飛べるんじゃ。ロンドンの町に、ウェンディという女の子が、2人の弟と夜寝とる時に、ピーター・パンが へやに飛んでくるん。ピーター・パンは、自分の影がとれたのを、やっと さがし出して、ウェンディに縫うてくっつけてもらうん。その後、ピーター・パンといっしょに、ウェンディと弟2人は、空を飛んで、ネバーランドに行くんじゃ・・」

マリ子は全身耳にしてきいていたが、みんなも、しいんとして裕子の方を見つめて聞き入っていた。

「・・その島は、にぎやかでな。妖精も人魚もおるし、海賊船にはフック 船長と手下がぎょうさんおるし、おっきなワニもおるし、インディアンも おるん。ピーター・パンは迷子になって親のおらん子どもらといっしょに、木の下の地面の中の、かくれ家に住んどって、ウェンディがみんなのおかあさんになるん・・」

「海賊がおるんか、インディアンも?」

昭一が甲高い声を上げて、皆の注目が一気にゆるんだ。裕子は昭一の方を むいて、うなずいた。

「みんなが、おっかけごっこになるところが、おもしれんじゃ。フック船長は、ピーター・パンに切られた片腕を、時計をはめたまんまワニに食われてしもうて、かぎのついた義手をはめとるんじゃ。船長は仕返しをしちゃろうと、ピーター・パンをいっつも追いかけとるん。インディアンは海賊を追うし、腹の中で時計の音がしとるワニが、船長を食おうとして、追うんじゃ。ぐるぐるおっかけっこして、ハラハラして、すっごくおもしれえよ」

金子先生がうなずきながら、大きく拍手した。つられてみんなも、拍手を 始め、それがどんどん広がった。

「ありがと、ありがと。じょうずに話してくれたな。わしは昔からこの本が好きでな。うちの子どもら4人と、近所の子らがうちに来ると、庭や畑で〈ピーター・パンごっこ〉をようやったんじゃ」

「先生もいっしょにか?」
昭一の声が、うらやましそうに聞こえた。

「あったりめぇじゃ。でっかいせいかな、たいていワニをやらされとる。
腹にめざまし時計をぶらさげてな」

ハハハハ・・。講堂じゅうが笑いにつつまれた。

「おもしれえ役のもんが、ぎょうさん出てくるじゃろう。ふた組合同で  やりゃ、できそうな気がするんじゃ。遊びじゃと思うて、楽しうやれば  ええ。さてと、この〈ピーター・パン〉の劇をやりたいと思う人!」

はいはいはーい! ひとり残らず手が上がっていた。マリ子ももちろんとび上がって賛成した。

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