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  5-(5) とんだことに!

マリ子はわくわくした。山向こうの瀬戸にいたころは、夏じゅう川遊びが さかんだった。六間川もあれば、海水が流れこむ潮入川しおいりがわでも遠泳をよくやった。お兄ちゃんのかわりに、マリ子が男の子にまじって、真っ黒になって泳いでいたのだ。

ひとしきり浅瀬で水ならしをした。泳いでみてすぐに、マリ子は水着の  スカートが気になった。ふわふわと体のまわりでゆらめいたり、もつれたり・・。立ち上がれば、めくり上がって恥ずかしいったらない。取れるものなら、引きちぎっても取ってしまいたいほどだ。この水着のせいで、負けるかも・・とちらとそう思った。

男の子たちは、着々と準備を進めた。正太が先にとびこみ台まで泳いで  行き、勝ち負けを判定することになった。出発合図は俊雄の役目だ。

「やるか?」
しげるがどなった。わあおう、男との子たちが雄叫びをあげた。

「ええよ!」
マリ子も受けて立った。女の子たちは浜に立って、見守る形になった。

「マリちゃん!」
君子がひと声上げて、両手をにぎりしめている。泳ぐのは浜に線を引いた 地点から、とびこみ台までのほぼ100メートルほどだった。

「ようい」
俊雄が青いタオルをふり上げた。

マリ子ととしげるはそれぞれ、胸の高さの地点に立った。
「どーん」

俊雄の合図で、2人は立っていた位置から、しぶきを上げてとびこんだ。 背の低いマリ子の方が、浜辺よりだ。どちらもクロールで、速い速い。

「マリッペー、負けんでー」
加奈子の声が聞こえた。男女対抗となると、マリ子の味方をしてくれる  のだ。

「マリちゃーん」
女の子たちの黄色い声がひびく。

「しげるぅ、負けんなー」
「負けたら、恥じゃー」

男の子たちは叫びながら、浜ぞいにかけて来る。

マリ子は負けん気丸出しで、ありったけのピッチを上げた。しげるの頭が 目の下に見えた。やった! 勝ってる!

が、しげるもぐんぐん追い上げて来た。マリ子も死に物狂いで腕をぬいた。

「しげるぅ、マリッペ、がんばれー」

正太の声が前方から聞こえた。終点はもう少し先だった。

そのときだ。マリ子のスカートがぐいと引かれた。ふいうちだった。すごい力だ。マリ子は水の中に引きずりこまれた。ぐわっと水が鼻と口をふさいだ。苦しい! おぼれる!

マリ子はけった。つきはなそうと、あばれ、けとばし、もがいた。それでもしがみついて離れない。耐えきれず、やっと浮き上がると、思いきり息を ついた。胸がはりさけそう、頭がくらくらする。

その時、すぐわきに見えた、青い水着の子! マリ子のスカートにひっしにすがりついている。おぼれてる? マリ子はとっさに、その子の わきの下に肩を入れた。白い帽子がくたっともたれてきた。女の子だ。

どこかで、ザバーンととびこむ音がした。マリ子はその子を抱えて、もがきながら岸へ向かって泳ぎだした。

追いついてきたのは、正太だった。マリ子と並んだと思うと、ひと声大きく言った。
「かわっちゃる」

マリ子は肩をはずすと、体がふらついた。岸にようやくたどりつくと、くずおれてしまった。ひどくつかれて、意識がうすれた。かけよってくる足音が、いくつもきこえた。

おとなたちのさわぐ声、集まってくる足音も聞こえる。医者を呼べ、という叫び声がする。その女の子への人工呼吸が始まったらしい。

かけ寄ってきたのは、女の子たちだった。

「ふるえとるが、マリちゃん」
加奈子の声がした。あたたかい手がマリ子の腕をつかんだ。マリ子は力が
ぬけて、体が思うにまかせない。

「立たれん? ええわ、うちがおぶうわ」
加奈子が背中を寄せた。静江が支えて、2人で休憩所まで連れ帰って   くれた。君子も洋子もマリ子の背中に手をかけていた。

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