(147) 口ぶえ
高尾のおばあちゃんに、ママ手作りの草もちをとどけに行く日、マイはバスの中で、学校帰りの一、二年生くらいの子たちを見かけました。
私立校らしく、おそろいの制服に、うす手の革カバンをせおっています。公立校にかようマイは、ふだんぎのブラウスにスカートでした。ですから、女の子たちの、白シャツにチョウネクタイ、チェックのスカートに、こんいろのぼうしは、きりっとしてまぶしく、つい見とれてしまいました。
みんな楽しそうに、ふざけ合ったり、手あそびしたりしています。
そのうちに一人が口ぶえを吹きはじめました。
「ちょうちょ、ちょうちょ、なのはに とまれ」のメロディです。
「わたしもできるよ」
ほかの女の子たちも、つぎつぎにくわわりました。
うまくメロディを吹けない子もいます。
中に一人、どうしても音の出せない子がいて、いきばかりきこえます。口をまるめて、苦心しているようです。
「それじゃだめだよ、わたるくん」
と、言った女の子の声で、口ぶえを吹けないのは、男の子だったと、わかりました。
女の子たちに、口々にこうしてごらん、とおしえられても、いきばかり聞こえて音は出ず、男の子はあたまをかしげています。
マイは口ぶえを吹いたことはなかったのに、思わず口をすぼめて、息を吸いこんでいました。ピーと高い音が出て、いっせいに、みんながマイをふりむきました。まっかになったマイに、みんながニコニコしてるのが見えて、マイも首をすくめて、ニッコリしました。。
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