見出し画像

(107) 風の道

もうすだれをしまう時期なのね・・。星さんは廊下との間仕切りのすだれを、よく搾ったぞうきんで力を込めて拭きました。いつもの年なら、真夏と残暑の厳しい時期を乗り越えるまで、ぐったりして過しているはずでした。

今年は、建て替えた新しい住まいの居心地よさで、暑さ負けを知らずにすみました。

何より救われたのは、夏の間、自然の風が家の中を吹き抜けてくれたことでした。
北側にいくつか小さな窓を抜いたおかげで、南側の大きなガラス窓を開きさえすれば、幾筋かの〈風の道〉ができるのです。


画像1

冬の寒さも厳しく、その上夏の暑さと言えば、全国に報道されるほどの記録を持つこの地から、いっそ逃げ出してしまいたい。夫の定年を迎えたら、もっと温暖な土地に移りたいと、星さんはひそかに地図や土地案内所を、探ってみたこともありました。

が、土地の値上がりや移転の煩雑さ、それに夫ともども、やはり住めば都の八王子、でした。

この地で改築、と心を決めた日から、夏を快適に・・を目指しました。作戦は効を奏し、この夏クーラーも扇風機さえも不要でした。

間仕切りのすだれは、風を通して揺れる風情も涼しげです。昔の人の知恵は、なかなかどうして、捨てがたいものだと、星さんは改めて思いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?