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「山賊」に就職したという友人

「……それは猟師とかじゃなくて、本当に山賊?」
「そうとも、山賊さ」
「半ぐれとか、反社会の方々ではなく……山賊?」
「だから『山賊』だって言ってるだろう」

 神奈川県足柄のパーキングエリアで10年ぶりに再開した友人の松本。足湯のあるレストランで再開を喜びあうと、おのずと家族や就職の話となった。しかし、私は「山賊に就職した」という松本の話に首を傾げていた。

「……何してんだよ、お前。いや、俺は時代劇で見たくらいだけどさ。あれだろ、追い剥ぎをする輩だろ。就職じゃないだろそれ……。それはさ……」「ならず者だよ」と口からでかかったが、松本はもう既にカァーと顔じゅう真っ赤になっていた。
「わかった。職場すぐそこだから、みせてやるよ」
「みせてやるって、何をだよ」
「今お前が言った『追い剥ぎ』だよ」
「はあ?」
「だから『通るには、通行料をいただくぜ』ってアレだよ!」
「…………おいおい、だからそれ犯罪だって」 
 松本は首をゆっくりとした動作で横に振り、近くにある「料金所」を指さした。(…………あ、何)「……そういうこと?」
 

 なるほど、はっきりと言われてみればたしかに「山賊」だ。

 通りやすい道を作り、その道を通る人間から「通行料」だと言いがかりをつけ、金をせしめる。

 昔からやっているであろう強奪が、だいぶ「スマート」にはなっているが……。確かにな。

 ……………………。

「……まあ言いたいことはわかったよ。すこし考えさせられた。遅れたけど、就職おめでとう」
「ありがとよ、げへへ。つまり俺はあそこで分前をもらっているのよ」
「ああ、立ってるだけの簡単な襲撃になったものだな」
「本当に今は簡単になってな、人なんていなくても『通るだけで口座から金を拝借』できちまうんだぜ」
「はいはい。ETCね。全国にあって『薄利多売』ならぬ『薄利多奪』だな」
「がははは! そうだな」
「いや、何も口調まで山賊しなくていいんだぞ。立派なお仕事だからな」
「そうだろう、がはは!」
(やれやれ、ウィットに富んだジョークかい)
「……はあ。お前んちの両親、静岡で漁師やってたじゃん。なんで『海賊』にはならなかったんだ?」
 松本はすこし面食らったようになったあと、再び顔を真っ赤にさせ「海賊は略奪が旨味」だという旨の熱弁をはじめた。

「まずさ、両親が漁業をできる海を所有しているのって俺のご先祖さまがそこの『海』を略奪したからだろ?」
「言い方悪いな! ……いや。まあ、そうだろうけど」
「略奪した後で、いくら海があっても、農家が農地を耕してるのと同じだろう?」 
「……まあ、たしかに(そうなるのか)(いや、ぜんぜん違う気も)」
(……ん?)「……そういうこと?」

 海賊なんてのは、倭寇なんて呼ばれていた時代、既に日本の海を奪い尽くしてしまっている。あとはその先祖が代々、略奪した海域を「漁師」として守り続けていくわけだ。

「ま……松本!」
「ああ、なんだ!?」
「エアポートはいいな! あれは『空賊』か!?」
「たまらねえな! がはは!」
 松本から「ようやくわかったか」と笑いが溢れ、手を振りながら料金所へ消えていった。
 だが、私は自分のことを「山賊」なんて言う松本の事が気になり、どんな接客態度なのだろうかと後をつけてみた。

「おい、ごら! お前、ここを通るには『通行料金』をいただくぜ! 普通車で1000円、軽自動車なら800円にまけてやる!」

 (ば……馬鹿野郎……!)


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