第1143回「うれしい反響」

東京駅の近くの会議室を借りてイス坐禅会を行おうと思って、昨年始めましたが、先日早くも九回目を迎えました。

こちらも毎回どうしたら心地よく坐ってもらえるか工夫しています。

毎回用意するのは、タオルとゴルフボールに紙風船であります。

タオルを床に敷いて、靴と靴下を脱いで裸足になってもらいます。

ゴルフボールで足の裏を刺激してもらいます。

特に拇指球、小指球、踵の三点をしっかり意識してもらうようにしています。

都内で六時半から行っていますので、仕事帰りの方もいらっしゃいます。

スーツで革靴のままですと、どうしても体が緊張したままで深い坐禅になりません。

まず靴を脱いで素足になって足の裏をボールでゴロゴロやっているとほぐれてきます。

それから肩や手首をほぐす体操を行っています。

これもデスクワークが多いと思いますので、肩、首、手首などは大事です。

そして足の指もほぐしてゆきます。

毎回行っているのが紙風船を使ったワークで、これで体幹が調うのであります。

アンケートの感想を拝見しても「体をほぐし、足の裏をほぐすことで、体幹がしっかりし、足が地面に吸い付き、気持ちよく坐ることができた。」

というのがございました。

まさに私が願っている通りのことを実感してくださっていることがわかりました。

それから、今回は私が最近開発した体操を試みてみました。

これは腰を立てるいって漠然と腰に力を入れても反り腰になってしまったり、腰に無理な負担がかかったりしてしまうので、腰椎の5番に注目して作り出した体操であります。

腰椎5番などと言われてもよほど体の勉強をしてないと分かりにくいので、体操しながら仙骨が立って腰椎5番がしっかり立つようになる体操を作ってみたのでした。

自分としてはかなり工夫して作ったつもりで、自分自身では十分実感できるのですが、多くの方に通じるかどうかは多少不安でありました。

会のはじまりでも、インド旅行に触れて、長時間のフライトやバスの移動でも全然苦痛でなくなったことを話をしておきました。

これはひとえに腰椎5番を意識していたからなのであります。

昨年から何人かの方から、不思議と腰椎5番ということを教えてもらって、なるほどと思って、これをどうしたら皆さんに伝えられるかを工夫してきたのでした。

これが、私が思った以上の効果でありました。

まず一度行っただけで皆さんの姿勢が見事に変わりました。

表情によく現れていました。

「ああ、こんなに気持ちいい」という表情なのです。

いただいた感想にも、

「仙骨をしっかり感じながら坐ることで、とても楽に気持ちよく坐ることができた」

「無重力の中にいるような不思議な感覚でした。」

というような言葉がありました。

あまりに効果があったので、その次の日には修行道場の修行僧たちにも体験してもらいました。

これがまた修行僧たちもいっぺんに姿勢が一段とよくなったのでした。

ある修行僧は、坐っているという感覚がなくなって、幸福感に包まれるようだと言っていました。

寝付きがよくなった、次の日の目覚めが爽やかだった、朝の坐禅が気持ちよくいつまでも坐っていたくなったというような声が、修行僧からも聞こえたのでした。

イス坐禅では坐るまでに50分くらいかけて準備して10分間坐っているのです。

無駄のように思われるかもしれませんが、坐禅の時間の長さよりも深さを大事にしたいと思うのであります。

10分の坐禅の為に50分かけて体をほぐし腰を立てるのです。

感想のなかにも

「ウォーミングアップがとても丁寧で坐禅が楽しいものだと初めて思いました。
実践的な内容が多く、参加する度に新しい発見があり、より楽に坐れるようになってきています。」

「こりかたまっていた体がほぐれて、体に血が流れました。」

「「坐ることは安楽である」をまさに体感することができました。」

というのがありました。

またホトカミの吉田亮くんもご自身のSNSで、

「イス坐禅会では毎回、しっかりストレッチや体幹を整えてから、坐禅します。おそらくストレッチの時間の方が長いくらいです。

坐禅は、とにかく長い時間ずっと座っていることが正義という先入観を持っていました。(その深さのためには時間も、もちろん大切なんだと思いますが)

坐禅は、時間ではなく深さ。

身体を整えて、条件を整えていけば、深く座ることができるという言葉が印象的でした。」

と書いてくれていました。

それに「イス坐禅を通じて、イスに座るのがなんだか心地よくなる時間が増えました。

イス坐禅が非日常から日常に変わりつつあるのをすっごく感じています。

多分、これからの人生も、座っている時間は寝ている時間くらい長いと思います。立ったり、歩いている時間よりも長いかもしれません。

その座っている時間が苦痛ではなく、心地よく感じられることは、大きな大きな利益です。」

とも書いてくれています。

驚いたのは、そのイス坐禅の次の日でありました。

中之島に行って講演することになっていましたので、朝早く新幹線で出かけました。

新大阪日帰りであります。

荷物も多かったので、昨年修行道場に入ったばかりの修行僧をお伴にしてゆきました。

彼はイス坐禅にも出てもらっているので、私がインド旅行でも腰を立てていると苦痛はなかったという話を聞いて、新幹線の車内でもイス坐禅の要領で腰を立てていました。

そして行き帰り、ずっと私の『はじめての人におくる般若心経』を読んでくれていました。

彼が帰ってから、日帰りで疲れるたかと思ったらイス坐禅のおかげで、腰もお尻も苦痛が全くなく、足も軽い、こんなに効果があると思わなかったと驚いていました。

夜もよく眠れて、朝もよく目覚めることができたというのです。

他の修行僧達にもイス坐禅はすごいと伝えてくれていました。

これは誰でも実感できるのであります。

体が調えば呼吸も自然と調います。

「呼吸をコントロールせずとも自然と楽に深まり、坐禅中にどんどんと手足が温まるの感じることができました」

という感想があった通りなのであります。

すると、また驚いたことには、先日のイス坐禅会には、世田谷龍雲寺の細川晋輔さんも参加してくださったのですが、なんと龍雲寺の日曜坐禅会で、私が開発した体操を披露してくれていました。

その動画を拝見していると、恐れ多いのですが、体操をなさっている細川さん自身の坐禅の姿勢がよくなっているのが分かるのであります。

またその後、細川さんが京都に行かれるときにも、新幹線の中でイス坐禅の要領で坐っていると、腰の調子もとてもよかったと感想をいただきました。

ともあれ、いろいろ学んで工夫した体操がこんなに効果があり、反響が大きくて嬉しくなっているのであります。

みんな楽しく幸せに坐れたらいいなと願っています。
 
 
臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺

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