見出し画像

Pro Toolsオペレートを始めたきっかけ

なんとなく徒然なるままに経緯を書いてみる。

2013年7月、「潮時」と思って会社員を辞める。
同時にDimension Cruise(以下DC)に所属。
所属とは言いつつ、実情はフリーランスの作曲家。これはいま現在も変わらない。

DCに所属してから外のスタジオでも、会社の自社スタジオでもいろんな種類、いろんな楽器のレコーディングの機会があった。プロのスタジオミュージシャンの仕事を目の当たりにして感動し、レコーディングスタジオのコントロールルームや、録音ブースにある超一級品の録音機材、マイクが山のように積まれてるのにも感動し、エンジニアさんが颯爽とその機材を使って音作りをしている様、社長やディレクターがバシバシとディレクションしてテイクをジャッジしていく様子にも感動した。とにかく全部に感動した

そんないろんな感動ポイントがある中で、自分が特に感動したのは、外のスタジオでの、アシスタントエンジニアさんのPro Toolsの操作のスピード。大学時代にも授業でお遊び程度にPro Toolsは触ってはいたが、どちらかというとDAWに親しみましょう的なホントにお遊び程度。大学の先生もあまり使い慣れてなくて、とにかく大学のPro Toolsはモッサリしてて遅かった。それと比較すると「Pro Toolsってこんなにサクサク早く動かせるのか」ということにいたく感動した。プレイバックの場所もすぐに探し出して、バシバシパンチインを決めて、サクサクとフェードでテイクをつないで、テイクの差し替えやエディットも高速で決めて、作家がディレクションで何かしゃべってる間、ミュージシャンが音出ししてる間、さらには録音回してる間、ほんのわずかなスキマ時間の中でテイクの整理やトリートメント、細かいフェードのつなぎの調整をやっている。その一連の作業すべてをキーボードのあらゆるショートカット駆使して無駄なく超高速スピードでこなしていくアシスタントエンジニアさんの仕事にとにかく感動した。これぞプロの仕事と思い知らされた。

その後しばらくたって、何の楽器だったか忘れたが、自社スタジオでレコーディングすることがあった。当時、自社スタジオでのレコーディングは社長がワンオペで回していた。ギターも歌もドラムも弦カルも社長が一人でマイクを立てて、一人でPro Toolsを回していた。その録音のとき、自分はたまたま見学に来ていて、社長がとにかくあれもこれもやらないといけなくて大変そうだったのを覚えている。あまりにも大変そうにてんやわんやしているところを見かねて、自分がふと
手伝いましょうか?
と声をかけた。そこからどういうわけかオペレートを手伝うことになった。結果は散々で、ミュージシャンにも散々迷惑をかけたし、社長やミュージシャンの要望にも全く応えることはできなかった。自分が回すことで結局余計に時間がかかっている感があって正直そのときはボロボロになって凹んだ。テンキー3番を押すと録音ができる、というショートカットもここで初めて覚えた。

もうこれっきりかと正直思ったが、ありがたいことにもその後も社長の録音にはことあるごとに呼んでいただいた。ワンオペでやるよりも人手がいたほうが助かるようで、自社スタジオでの録音ではことあるごとにお手伝いに駆り出されるようになった。マイクも立てたし、もちろんオペレートもやった。現場ひとつひとつこなすごとに失敗してミュージシャンにもクライアントにも迷惑かけて、そのたびに次は失敗しないようにと思って、必要な動作、ショートカットをメモして、家に帰って練習して、また会社来てオペレートしてを繰り返しているうちに、とりあえず人並みにはソツなくこなせるようになり、いつの間にかギャラをもらってオペレートをするようになっていた。自社スタジオでの録音が立て込むとほぼずーっと会社にオペレートしに行ってた。まだまだペーペーで全然作曲の仕事がない自分にとってオペレートの仕事は非常にありがたく、経済的にもかなり助かった。

でもそれ以上に、いろんな録音の現場を直接見れることの恩恵のほうが大きかった。自分の曲の録音だけだと到底録らないような楽器も録ったし、自分の曲の録音だけだったら到底経験できないくらいものすごい数の現場で仕事させてもらった。結果、録音の経験値だけはものすごく上がったと思う。他の作家さんのディレクションを見ながら、ミュージシャンにはこういうディレクションをすると良さそうだ、逆にこういうディレクションは良くないな。オペレーターさんに指示をするときも、こういう風に言うと伝わりやすい、こう言うと紛らわしい。譜面も自分だけでなく他の作家さんのを見て、こういう譜面だとミュージシャンは演奏やりにくそうだ、こういう譜面の書き方をしたらやりやすそうにしている。オペレートをやるようになったことで、結果として、他の人の録音の現場を見る機会が増えた。そしてそれが自分にもノウハウとして蓄積して、最終的に自分の作家としての活動につながって、生かされていっているような気がした。

そういう経緯でオペレートをやるようになった結果、自分にとってオペレートは「生活の糧となる仕事」であり、「現場の場数を踏むことができる」ものであり、あらゆる経験値を積んで「作家としても向上できるもの」と思う。これはいまでも変わらない。いま現在の自分にとって、Pro Toolsのオペレートは作曲と同じくらい重要な柱である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?