『ジェイン・エア』で学ぶ英語
シャーロット・ブロンテ(1816-1855)は英国を代表する女性作家のひとり。『嵐が丘』の作者エミリー・ブロンテの姉でもあります。
代表作は『ジェイン・エア』。ガーディアン紙が選ぶ「史上最高の小説ベスト100」で18位にランクイン。
主人公のジェインが過去を振り返り、子供時代からの人生を自叙伝のように語っていく、という形式をとっています。なかなかにドラマティックな内容で、読んでいて飽きない。名作と言われているのも納得です。
僕は岩波文庫上巻の最初の100ページくらいだけ日本語で読み、世界観や登場人物を把握し、残りを英語で読みました。19世紀前半の洋書にしてはけっこう読みやすい本だった気がします。
今回はこの『ジェイン・エア』からいくつか文章を拾って読んでみましょう。
「人生はいつもこうだ。」彼はしばらくしてから続けた。「心地よい休息の場所に落ち着いたと思うやいなや、さあ立って歩きだすんだ、もう休憩の時間は終わったのだからな、と声をかけられる」
ジェインとその主人ロチェスターの会話。
学校で習った「no sooner A than B」の登場です。実は現代の作品でもこの構文わりと出てきます。
「no sooner have you got settled in a pleasant resting-place, than a voice calls out to you to rise and move on, for the hour of repose is expired」
no sooner A than Bで「AするやいなやB」という意味。
soonerだから後続のものより早くて、でもそれをnoで打ち消してるから…みたいない考え出すとよくわからなくなってくる。no sooner A than Bで「AするやいなやB」と覚えてしまったほうが楽。
この文章ではno soonerの後の完了形に倒置が発生して、have you got settledとhaveが前に出てきています。否定表現が先頭にくるとこのような倒置が発生します。no sooonerは否定表現ですよね。だから倒置が発生。
続く「for the hour of repose is expired」のforは「なぜなら」の意味。堅い表現。
・presently しばらくして
次はまた違う場面から、ジェインの発言を読んでみます。
「でも、私はあなたのことを良く思っていないわ」。私は言った。「その理由を言うわね。あなたが私に避難所を与えてくれなかったり、私を詐欺師と見なしたりしたからじゃないの。むしろ、さっき私が『お金』も家も持っていないことを非難の種にしたからです。今までに存在したもっとも素晴らしい人々の中には、私のように貧困な者もいました。あなたがクリスチャンであるなら、貧困を罪と考えるべきではないはずです。」
まず1文目の「But I do think hardly of you」ですが、この「think hardly of」は「think ill of」と同じ意味で、「~をよく思わない」。hardlyにするのは古風な表現なので現代では見かけません。
そして次に、またしても学校英語で習うおなじみの構文が登場。今度は「not so much A as B」です。「AではなくてBだ」の意味。
「and I’ll tell you why—not so much because you refused to give me shelter, or regarded me as an impostor, as because you just now made it a species of reproach that I had no ‘brass’ and no house.」
「not so much because A, as because B」の構造になっていますよね。「Aだからじゃないの、むしろBだからなのよ」。
ついでにBの部分の文章「you just now made it a species of reproach that I had no ‘brass’ and no house」をちょっと解説。
just nowは「さっき」の意味。
そして「make A B」で「AをBにする」の構文。Aには「it」が、Bには「a species of reproach」が置かれています。
「a species of reproach」は非難の種。
「brass」は金属などを意味する言葉ですが、ここでは婉曲的にお金を表しています。直接的にお金を話題にするのがデリカシーに欠けるため、こういう表現を使うわけです。
・impostor 詐欺師
・just now さっき
次はまた別の場面。ジェインの心情を述べる地の文。
「彼はそれを見つけられていなかったのだろう。私もまた、見つけられていなかった。私の心には、壊れた偶像と失われた楽園に対する、隠された激しい後悔があったから。この後悔のことを、最近は触れないでいたけれども、それは私にとりつき、無情にも支配していたのだった。」
これはかなーり難しい文章です。
またしても学校英語でよく見た覚えのある構文が登場。今度は「no more A than B」です。「Aではない。ちょうどBではないように」。
これも「moreだから後続パートより大きくてそれを否定しているから要するに…」とか考え出すとドツボにはまるので、「no more A than B」で「Aではない。ちょうどBではないように」と覚えてしまったほうが早いです。
「he had no more found it, I thought, than had I」
ここで区切られます。「彼はそれを見つけられていなかった。私と同様に」。「それ」というのは前文で話題になっている心の平安のこと。
「than had I」のところは倒置。
hadの次に「found it」が省略されています。「he had no more found it, I thought, than had I found it」。これを見抜けるかどうかがカギ。ちなみに現在のChatGPTではこの文章は翻訳できませんでした。
with以下はおまけです。
「with my concealed and racking regrets for my broken idol and lost elysium—regrets to which I have latterly avoided referring, but which possessed me and tyrannised over me ruthlessly.」
なぜ私にも平安が見つけられていなかったのかを説明している。私はwith~で「~をもっていた」から、平安がなかったという流れ。
そしてwithのなかに出てきたregretsをさらに「—regrets to which I have latterly avoided referring, but which possessed me and tyrannised over me ruthlessly」で後ろから説明しています。
・racking 激しい、ひどく苦しい
・elysium 楽園、理想郷
最後に長めの引用をして終わりにします。
寄宿学校の先輩ヘレンがジェインに語る言葉。作品全体のトーンを方向づけるような印象的なシーンです。あえて訳出はしないでおきます。
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