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土岐麻子のこと、ドルのこと

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ドル、のことを記録します。
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土岐麻子のこと、ドルのこと。アウトテイク。
既に解散していたシンバルスがやっぱり大好きでドルの空間をこの曲で満たした。そして涙した。
http://youtu.be/LAhwhvmAzmA

土岐麻子のこと、ドルのこと⑧最終回

「諸事情からドルを辞めることになりました。DJパーティ楽しみにしていたのにごめんなさい」
突然マスターからのメールが届いたのは9月中旬のある日の午後だった。何人かのマスターに近い常連さんに同じメールが送られていた。僕はびっくりはしたものの、何となく微妙な雰囲気の潮目を感じていたので、意外に冷静に受け止めていたと思う。一緒にDJパーティを企画している常連さん達に連絡を取ると一様に困惑していたので、取

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土岐麻子のこと、ドルのこと⑦

ドルは4月中旬で1周年を迎えた。実は色々経緯があってマスターが1人でこの場でドルとしてバーをやり始めてからまだ1年しか経っていなかった。1周年の記念は特に大きなイベントがあった記憶はないが、常連さん達でゆるやかにお祝いをした。常連さんは更に仲良くなっていてGW期間の店が休みの時にボーリングに行ったりとかコミュニティ化のようなものが更に進んでいた。

女性が1人でバーに行くというのはやはり勇気がいる

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土岐麻子のこと、ドルのこと⑥

4月に入って最初の日曜のお昼前だったと思う。「あの、今日暇ですか?会えませんか?」電話口のマスターの声は動揺というか普通でない雰囲気を帯びていた。「あ、うん、良いよ。そうだな1時間後ぐらいに緑道で良い?」「はい、ありがとうございます」

マスターは恋をしていた。その女の子が高校生の頃に知り合った、ずっと彼女はマスターをお兄さんのように慕っていた、マスターも妹のように付き合ってきたと以前話してくれた

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土岐麻子のこと、ドルのこと⑤

年が明けた。正月休みの後もしばしば「ドル」に出入りしていた。常連の知り合いも次第に増えていったが、年末のDJパーティの影響か音楽の話をすることが多くなっていた。話は2つの種類に分類されて、1つはひたすら好みの音楽について深く入っていくよくあるタイプ。もう1つは好きな音楽を他人に聴いてもらいたい=DJやってみたいという話だった。これは「じゃ、今度一緒にやってみようよ、DJはCDJだったら技術的には大

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土岐麻子のこと、ドルのこと④

マスターは「ドル」のことを「なんちゃってBarですから」といつも言っていた。これは謙遜でもなく、まともだったのはロックアイスはいちいち周りを砕いて球型にしていたことぐらいかもしれなくて、カクテルはメジャーじゃないものは後ろを向いて参考書を見たりしていた。

僕が「モヒート出来る?」と聞いたら、

「あ、生のミントがないんですよねー。乾燥したやつならあるから作ってみましょうか」と。

やっぱり変な飲

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土岐麻子のこと、ドルのこと③

常連になり出していた晩秋、いつも流れていたのが土岐麻子のジャズアルバムだった。「ドル」のカウンターの隅にMacBookがあって、iTunesにはそんなに多くの音楽が入っていなかったのだが土岐麻子のアルバムだけは幾つかあった。特にヘビーローテーションだったのが「STANDARDS on the sofa~土岐麻子ジャズを歌う~」だった。

「もう飽きましたよね?」

「いや、このままで良いよ。他のお

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土岐麻子のこと、ドルのこと②

勢いでやることに決めたが、自分主催のDJパーティは実は初めてだった。

時間は21時から始発まで、と決めた。営業は特別仕様なれど20時から始めて通常のお客さんも若干受け入れられることにしたのはマスターの提案だったかもしれない。ドリンクは1コイン(当時はそんな言い方あっただろうか)のパーティメニュー。フードは人数のいないスタート時にサービスで出したが、基本的になし。

始発までは8時間ぐらいある。自

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土岐麻子のこと、ドルのこと

土岐麻子のこと、ドルのこと

土岐麻子のこと、ドルのこと(INTRO)

Cymbalsが大好きだった。2004年に解散して、そのVo.だった土岐麻子がソロで活動することになった。

あの時、彼女には既に幾つかのシングルやアルバムがあったのかもしれないけど、『STANDARDS~土岐麻子ジャズを歌う~』がとにかくその頃、人にこんな音楽が好きなんです、みたいな、名刺代わりのような位置付けにあったのは今でも覚えている。

たま

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土岐麻子のこと、ドルのこと①

あの街に引っ越したのは当時絶望的な恋心を抱いていた女性が隣町に住んでいたからだ。

転勤でまた引っ越しを余儀なくされることになるまでの時間は自分の人生の中でも特殊で、濃密で、大げさだけど今でも奇跡が起きていたんじゃないかと思っている。でもそんな時間は長く続くはずもなく約1年半で終わることとなる。

8月最終の週末に滝のような汗を流しながら引っ越し作業を終了した時、自分の心は闇に包まれていたが何とな

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