見出し画像

眺望

   眺望

ビルの最上階から眺める都市は
電子基盤の上に並べられた回路のように
ある規範をもって息づいていた

信号とカーナビと
経済と社会と
法律と―――

電子のように活動するもの
化学反応のように進む再開発
ある部分では腐食するまま

私、という思いが
この眺望のどこに潜り込めるのか
この回路のどこに生き続けることができるのか

自動的にはめ込まれ
自動的に働かされ
自動的に生かされてゆく―――知らず知らずのうちに

向かい合った鏡の間に立った時のように
無限に映される、私
その虚像の全てを使役されている

ビルを下りて通りに出ると
人々はそれぞれの顔を確かに持っていた
Aであり、Bであり、Cであった・・・

いや、正確には
Aの像であり
BやCの像であった

彼らの本体は一体どこにあるのか
おそらくそれは
彼ら自身にもわからなくなっている

“消去しても差し支えは無い
 ひとつの像を消すだけだ
 本体が消えるわけじゃない・・・“

その時
リカバリーが働いたらしい

サイレンが鳴っている

          (2007.1.3)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?