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詩) 佳日の散歩

   佳日の散歩

冷たい風が木々の葉を大きく揺らし
眩しく輝く陽射しをあちこちに乱反射させている
アスファルトで舗装された道を歩いてゆく
崖下に見える線路を電車が逃げてゆく
ドップラー効果で低くなった警笛とともに―――

「どこへ?」 「群衆の中へ、忘我の中へ」
「あなたは?」 「自己の中へ」
言った瞬間に、その言葉が一目散に逃げ去っていった
すると君は腹を抱えて笑いころげる
「大嘘つき・・・」

道端に生える雑草たちの名を呟いてみる
ナズナ、ジシバリ、カタバミ・・・
庭先に堂々と居場所を与えられた
パンジーやフリージアなどと変わりはない
僕は先へ先へと歩いてゆく

この風景と対話することは、一種の交易だったけれど
今や、その交易そのものが途絶えようとしている
廃墟と化してゆく、街道の宿場町、さらには港町
単なる維持や補修ならしない方がいい
見捨てられ、朽ちるままにしておきたいものだ

丘の下には水を湛え、きらきらと光る条里が、
たらふく肥料を食わされた腹を抱え
だらだらと涎をたらしながら
収奪者を受け容れる、その時を待っている
こんな美しさに見惚れたことなんて一度とてない

「まあ、なんて人でしょう、貴方という人は」
「魅力がなくなれば棄てる―――当然のことです」
「でも、棄てるものがなくなったら?」
「どうしたらいいだろう・・・」
「その時のために種を実らすのね」

さくっ、さくっ、という足音とともに
僕たちは絡ませる―――
浮き浮きとした心と、5本ずつの指を
その肌触りと、お節介な風の愛撫は
君の言う「種」への想いを膨らませてゆく

          (2004.4.25~2009.9.20)

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