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焦燥

   焦燥

広々とした広間で
私は所在無く寝そべっている
暖かな午後が停まっているようだ
陽射しはわずかしか届かないけれど

   それなのに
   せっつくような時間の音が耳を離れない

   競わなければ―――押し潰されぬため、だけに
   働かなければ―――食うため、だけに
   恋をしなければ―――不能と言われぬため、だけに
   体操をしなければ―――健康であるため、だけに
   全てに加入しなければ―――社会に留まるため、だけに
   全てを知らなければ―――未来に乗り遅れぬため、だけに

   セキュリティシステムの警告音が鳴り響く
   録画装置のタイマーが働き始めている
   パソコンの液晶画面は「素早くキャッチしろ」と囁く
   携帯電話が突然振動を始める
   あらゆるおせっかいなシステムが居る
   それに尻押しされ、命令される
   未来へと加速しろ、と
   そのためにアクセルを踏み続けろ、と

   全ては「個」を守るためであって、
   それと引き換えに、やむなく
   「個」に全ての責任が帰されるのだ
   ああ、これが自由を守ることなのか

ああ
閉じ込められ、ねじ伏せられている生の戦きが
圧力を高めてゆくのを感じる

ウィルスのように漂い、我々に侵入し、遺伝子を攻撃する
この強大なシステムを前にして
お前はどうやって抗おうというのか!

黒く煤けた太い柱木を抱くと
その柱を介して
昇ってゆくのがわかる

僕のうた
お前の声
ああ、和して響き渡れ

単なる解体と消滅を追認し
虚無こそが、新たな我々の生を支えるのだ、と
哀れにも宣言する者ども

おお、聴け
お前たち自身の中に在る
生の戦きを感ぜよ

ああ、叫べ
うたえ
呟け―――

僕のうた
お前の声
それの沁みこんだ涙を、流せ

          (2007.2.12)

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