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詩) 名宛人

   名宛人

その昼の波のざわめきは
どろりとして
まどろむような
まるでうわ言のような響き

風化した後悔が目を覚まし
寝返りを打つ
遠くへ投げ棄てた恋を
口ずさんでしまう時

(無数の言葉が飛び交う中に、静かに、ひたすら静かに綴る書簡は投函されることはなく
配達夫が配っているものといえば、広告、広告、そして製品、また製品のみ)

風に掃き溜められた雲が
どんよりと連なり
次第に陽光を遮り
ふくらみかけた蕾を冷やす

吹きさらしの砂浜にて
掌を開いては
拳を握り
己が生を確かめる

ああ、書き認めたい
名宛人は
現在に生きる者達を住処とした
祈り、様

私はあなたの虜
ああ、あなたを愛撫したい
あなたは私の愛しい人
あなたは私の憧れ

瞼を閉じ
来るべき現在の消滅を
ひたすら待ち
死を眠る者よ

前略―――

           (2009.3.23)

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