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詩) 絵画

   絵画

けたたましく鳴き叫ぶ白い鳥は見下ろしている
岸壁に座り込み、漁網を繕う麦藁帽子を

宙に躍り上がる銀鱗の落下し、水面を乱す小さな音は
ひた、という短い響きを、すぐに水中に吸い込ませ、消えてしまう―――

目の前に浮ぶ漁船は、船溜まりの奥から忍び寄る波に
船尾から船首へと、ゆっくりと揺れを伝えている

私は糸を緩め、指先で共鳴を待ち受け、そして耳を澄ましていた
防波堤に遮られて見えぬ外海のうねりが砕け散る響きを

強圧的な陽射しが、大気を重苦しく淀ませていたけれど
繰り返し擦り寄ってくる音の揺らぎと海風が私を清めてくれる

見るがいい、慄えをまといながら海面から昇ってゆく、あの螺旋状の粒子の帯を
うねりに持ち上げられ、波の谷間に隠れることを繰り返す、あの螺旋状の粒子の帯を

この絵画の奥底の、さらにその遥か彼方へと続いてゆくものよ
私の中で織り上げられるのをじっと待ち受けるものよ

ああ、次第に薄れてゆく自らの存在の感覚
とめどなく流れ出して彼方へと追い縋ろうとするもの―――

私の中にあって私のものではない―――その感覚こそは
私の探していたものなのだ

羽を広げ飛び立ってゆく、あの鳥には見えるだろうか
海面を爪立ちながら羽毛のように舞う私の憧れが・・・

          (2004.8.13)

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