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苦しみ学のススメ 5

生きていくうえで、苦しみはついて回る。
小さなことから大きなことまで。

「苦しみがまったくない」っていう人もいたら、
それは、注意が必要だ。
多くの場合、
無理やり押し込めて、
感じないようにしているか、
悪いこととして、
自分を納得させているだけだから。

人生は苦に満ちているよねって、
2600年前に言ったのは仏陀だった。

仏教哲学者の鈴木大拙は、名著『禅』(ちくま文庫)のなかで、
次のように言っている。

「仏陀が『四聖諦』を提言して、その第一に、『人生は苦である』と説いたのは、まったく正しかった。われわれはみな、泣き声をあげながら、そして何か抵抗しながら、この世に生まれてきたではないか。少なくとも、柔らかな暖かい母の胎内から、冷たく、人をはばむ環境の中に生まれ出るのは、たしかに苦痛なことであったろう」(45ページ)。

バース・トラウマという言葉があるけど、
生まれてくる事自体も、
既に苦しみを伴っている運命なんだよね。
続けて、大拙は言う。

「だが、これは、天意によるものである。なぜならば、苦しめば苦しむほど、あなたの人格は深くなり、そして、人格の深まりとともに、あなたはより深く人生の秘密を読みとるようになる」(46ページ)。

ううう、この言葉にしびれる〜。
悲しみや苦しみは、悲惨な経験というだけではなく、
むしろ生きることの深さを教えてくれる出来事なのだ。

一方で、安直なポジティブ思考は、
ものごとの一側面しか見えておらず、
生きることの豊かさを、奥深い味わいを失ってしまっているといえる。
それは、吸うだけの呼吸のように、
夜のない一日のように、
男性しかいない人類のように、
明らかな片手落ちである。

いきなり、予想もしなかった、
混沌状態に投げ込まれたわれわれ。
不透明で不確実な時代に生きる我々にとって、
ポジティブ思考のようにプラスと思われること、
社会通念上良いとされていることは、
現実から逃避できる、陥りやすい危険な罠であり、
根深い病といえよう。
苦しみを認識し、感じ、
向き合う覚悟と強さをもちたい。
そこから開かれる、
新しい可能性、
今まで見えなかった世界があるから。

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