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「90’s ナインティーズ」西寺郷太著を読んで

 NONA REEVESのボーカルである西寺郷太さんの自伝的小説を読み終えた。様々な思いが去来し、まとまりきらないので頭に思い浮かんだことから羅列したいと思う。
 ・下北沢のミュージックシーンを彩った文化的ゴールドラッシュ話。
  それを経験する者と経験しないでブレイクするには?
  ホコ天、イカ天世代とそうでないもの。
 ・さらに言えば、漫才ブームの後のダウンタウン、音楽番組がほぼ絶滅した後のSMAPというバラエティーもこなすアイドルの登場。
  文化的ゴールドラッシュの是非とは?
 ・その後のボキャブラブーム、レッドカーペット世代。
 ・90年代のIT企業の隆盛(どう見てもこの時代の人はラッキーにも見える)
 ・「成り上がり 矢沢永吉」「大きなビートの木の下で~BOOWYストーリー」「グミ・チョコレート・パイン  大槻ケンヂ」青春物語、ミュージシャンの自伝とは何か?
 ・宮沢章夫さんが書いた80年代地下文化論。その時代の渋谷の役目。Parco、西武「おいしい生活」などのカルチャーと下北沢カルチャーの記録。
 ・私小説における西村賢太さんの「苦役列車」のとの違い。
 ・この読書は誰を想定しているのか?
  熱狂的なファンか?それとも今、ミュージシャンを目指す若者か?
 ・73年生まれの同世代。
 
 どういう切り口で本書をまとめるのがいいのか?ちょっと迷う。もちろん、これは誰に頼まれたわけでもなく、何を書いても誰もダメ出しもしなければ一円も発生しない。けれど、書かずにはいられない衝動もある。

 というのもNONA REEVESにはちょっぴり縁がある。今となっては記憶が定かではないのだが、メジャーデビューする前の「サイドカー」のアルバムを持っているのだ。これはタワーレコードで買ったものか?どうかも分からないのだが、その中にベースに「小山晃一」の名が連なっていることだけはこれまた、どういうわけか知っていた。彼は私の仙台一高の同級生である。早稲田大学の法学部(?)へと進学したことは風の便りで知っていた。そのため、彼が西寺郷太さんとある種、必然的に出会い、バンドメンバーとなったことは容易に想像がついた。かたや、放送作家として駆け出しの私もまた、テリー伊藤さんの制作会社の門を叩いたのが大学4年生時であり、勝手にシンパシーを感じていた。しかし、メジャーデビューのちにその名前がないことだけは知っていた。プロのミュージシャンになったのか?一般企業に勤めたのか?全く知る由もないまま、時は流れた。

 ちなみに私の音楽的趣味で言うと、山下達郎さんや大瀧詠一さん好きであり、ごりごりのロック好きというよりもシティポップ好きである。本書にも登場するサニーディサービス、TRICERATOPS、LOVE PSYCHEDELICOはど真ん中の好みでもあり、土岐麻子さんも好きなミュージシャンだ。と、考えるとNONA REEVESを聴いている自分もそんなに変じゃない。

 昨年末、偶然にもCLUB HOUSEで知り合った方がNONA REEVESのファンでもあり、小山に私のことを伝えてくれたことがきっかけで再会することも出来た。今、この記事を書いているのも何かに導かれてる気がする。

 さて、本書のストーリーの軸を成すのがスターワゴンのワクイさんとの出会いによって導かれ、開かれた世界だ。これは本書を読むまで知らないことであったが、郷太さんほどの美声の持ち主がバンドを組むことにすら、頭を悩ませていた!という事実は全く知らず。また、お笑いの若手芸人が路地裏や公園、ファミレスでネタ合わせをすればいいのに対し、プロを目指すミュージシャンにとっての金の問題はもっとシビアであろうことはひしひしと分かる内容であった。

 そしてバンドの年齢問題、兄弟はやりやすいなど、言われてみればなるほどと思う。ただ、小説では絶望の淵という表現はあるが、デモテープがいきなり高評価だったりと才能の面での挫折感はとりわけ薄い。元々、持ち合わせていたスター性というのかな、絶対にミュージシャンになるんだ!という気概が根底にあるのか?卑屈さは全くない。むしろ、「成功」を約束されているとうトーンがひたすらに続く。一方でエンディングに近くではちょっとトーンは変わるのだが。

 下北沢のミュージックシーンについては全く知らない世界で夜ごと、レコード会社の人間やらが物色するような世界があるのかと、ひたすら「へー」というしかない感じである。
 個人的には、そういう体験をしたことがないので羨ましい限りである。強いて言えば、IT業界の勃興の時代に20代を過ごしたが生憎、テレビの世界に飛び込んだ以上、そんなものはなかった。むしろ、放送作家の世界で言えば、元気が出るテレビの「放送作家予備校」は一種のゴールドラッシュだったのだと思う。そこで鍛えられた諸先輩方のノウハウやつながりはとてつもないものに見えた。(一方で放送作家予備校に入った人数も多く、競争率も激しいことが予想される。どちらがいいのか、分からない)お笑いでは言えば、80年代の漫才ブーム、ボキャブラブームとかそれこそ、あったわけだがその波に乗れたのもの、乗れなかったもの、波に乗れたように見えたけど長続きしなかったもの。。。業界は違えど、感じるものは多々ある。また、本書にも出てくるが、先輩を追い抜いたり、後輩に追い抜かれたりというね、いかなる職業おいても付きまとう現実は共通なのだと認識させられる。

 さて、私にとっての白眉の部分を上げるとすると、やはり筒美京平さんとのやり取りのくだりである。

 当時、59歳職業作曲家として日本の音楽史に頂点に名を刻む「筒美京平」。普段は悠々自適に青年期に好んだジャズでも聴いているのかと想像していた彼が、むしろ20代の自分より「今、日本で流行している音楽」を貪欲に聴いているという事実に戦慄した。
 京平さんは優しく諭すような口調でこう言った。
「ゴータ君たちも、このあたりの音楽をきちんと聴くべきですよ。ちょっと上品過ぎるんですよ、ノーナは。若い人たちはもっともっと、刺激が強い音楽を欲しているんですから。ヒットさせたいなら、今日本全国でヒットしている音楽を研究しなくちゃ」 

P246 「90’sナインティーズ」より

 この「上品過ぎる」「若い人は刺激が強いもの欲している」「音楽を研究しなくちゃ」というセリフは我が身を持って身につまされる思いだ。どこか下衆で、どこか賛否両論をはらむ内容で、今の時代を反映しているもの、これは私自身も創作のテーマとして、肝に銘じねばと思う次第である。

 とまあ、書き連ねたが、本書を読み終えた今、一番頭を過るのは「何かに導かれることで人生が切り開く」ことはあるだ。きっとこの文章を書いたことにも意味があるだろう。

 さて、Planet of Foodの新作は「CydonieのOMGスペシャル」
 フワちゃんを超える圧倒的キャラクター、Cydonieさんのパフォーマンスをぜひ、ご覧いただきたい。

 また、ガチ中華シリーズの2発目は「麺料理」特集。
 あなたの知らない本場中国の麺料理を紹介しています。

執筆者:島津秀泰(放送作家)
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