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「泥の中を泳げ。テレビマン佐藤玄一郎」吉川圭三、を読んで

テレビマンが描く「テレビ業界」を舞台にしたリアル

 元日本テレビのプロデューサーである吉川圭三さんの小説である。吉川さんと言えば、テレビ業界人ならば誰もが知るであろう王者日本テレビの立役者の一人である。詳しくはこちらの記事をご一読いただきたい。

 テレビマンによる「テレビ業界」を舞台にした小説だ。必然的にリアリティー溢れる世界が描かれているだろうことは容易に想像がつく。実は本を読む前にこの小説の発表の経緯は水道橋博士が編集長を務める「メルマ旬報」において何となくは知っていた。

 軽くさわりを紹介すると、知人の紹介を経て「幻冬舎」からの発売を視野に入れて執筆するも、横やりが入り断念。さらに吉川が籍を置くドワンゴの親会社KADOKAWAからの出版を目指すもとん挫する。しかし、救い手が差し伸べられてと、、、すでに発売に至る経緯そのものが「泥の中を泳ぐ」ような現実を思い知らされる。幻冬舎、KADOKAWAにしろ芸能を扱う書籍も取り扱う会社である、それがゆえの発売というゴールには至らないわけだ。魑魅魍魎の世界の一端を見た思いがしてならない。一方、「著者の知名度」「本の中身」次第では十分に道は開けることも証明したとも言える一冊だ。師匠であるテリー伊藤はベストセラー「お笑い北朝鮮」の出版の際し、15社に断れた末の発売と聞く。以前、リクルートのフェローであり、元杉並中学校の校長を務めた藤原和博氏は「(出版の依頼を頼まれたが)テリーさんの本を見る目が、私にはなかった。」と後悔の念を語っていた。企画の良し悪しとは、何かを考えさせられるし、突破口を探すことの重要性も身につまされる。

 さて、「芸能界のタブー」にも切り込んだ曰くつきの本書である。ましてや元日本テレビのチーフプロデューサーである吉川さんが書いた本だ。テレビの局員自体がそもそもエリートであるが、吉川さんの実績を見れば「トップ・オブ・エリート」であろう。その吉川さんが「テレビ業界」を舞台にする、言ってみれば、エンタメ小説というスタイルを借りて、吉川さんが見てきた景色を体感出来る一冊と言えるのではないか。

 私自身、放送作家としてテレビの端くれにはいる身としては、共感と驚きの連続であった。
 
 過酷で最悪な現場こそ、人を育てる、最高の場であることに「そうそう」と頷き、テレビ的な「ワイドショー」の立ち位置には「そうなのか?」と唸った。出入り業者の放送作家の身からすると、とかく局員は安定、安泰、最悪、左遷じゃないかと思うが、当事者にしか分かりえない苦労もあるだろう。何せ、30代半ばで結果を出さないものは、「干される」からだ。半沢直樹の「テレビ業界」版にも見える描写には、「そうなりますよね」とまさに魑魅魍魎の世界をこれでもかと見せつけられる思いがする。

 本書の魅力はやはり、エンタメ小説でありながら圧倒的なリアリティであろう。時に、マネージメントの極意が記され、時にハニートラップやら、使えない上司の下に付いたとき、海外ドキュメンタリストのレベルの高さ、素養など、全てが目に浮かぶ思いだ。また、多くの登場人物がリアル社会の人々を想起させるのも楽しみの一つだろう。DMMの亀山さん、石原慎太郎さん、堀江貴文さんと実名ではないが、そんな方々を匂わす方々とのやりとりは、これは小説か、はたまたノンフィクションか?と錯覚すらする。

 また、吉川さんの本音が見え隠れするのも興味深い。総務省の話、IT業界の寵児(堀江貴文風)、株価に一喜一憂する経営陣との話など、喫緊のテレビ業界が抱えるリアルな宿痾と現実が記されている。この辺に関しては、小説と言うよりも「新書」感覚でもう一度、読み直したいほどだ。

 そんな中の恋人とのやりとりが妙にいい、つかの間の休息のような心地良さがある。私がテレビマンのせいか、楽しむ要素よりも知られざる世界を覗く勉強の要素が勝ってるのかもしれない。余計に恋人との会話が楽しいのだ。

 章ごとにテーマが代わり、社長の交代劇、やらせ問題とまさにテレビマンに避けては通れぬ道を描く物語は一気読みをさせる。そうだ、泥の中も泳いでるけど、命綱を付けず綱渡りを歩く世界でもある。ホント、思うのだ。成功するのも大変だが、普通に生きることすら大変だよなと。人間関係が不器用な私からすると、10年前に読みたかった。そうしたら、もっとおべっかをしたかもしれないなあと夢想した。ぜひ、企業戦士に読んで欲しい一冊である。

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執筆者:島津秀泰(放送作家)
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