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 鯛が嫌いだった。養殖にたいする偏見で、抗生部質のお薬まみれのわけのわからん餌を食べさせてるという噂もあったからだ。でも、ほんとは大量の数とかたちがそろった宴会の鯛の塩焼きが、かちかちに乾燥して出されてるのがとてもまずかったからだとおもう。ついでに小さな睨み鯛のお膳のまえで、森繁演じるおっさんが、温泉で浴衣をはだけて、若い社員さんにエッチなことをいうというのも浮かんでしまう、昭和のだらしない部分の象徴なのだ。

 しかし、このごろ切り身を買ってみてたべるととてもおいしい。輸送も養殖もよくなったので、なまぐさくないのだ。そうか、鯛ってお魚の王様っていうのはうそではないんだ。ほんとは普段、単独で泳いでいて量がとれない鯛をたくさん食べてみたいという欲望があの塩焼きだったんだな。世の中はくいしんぼうのむじゃきな子供の時代から、たべものをいとおしむおとなの時代になったということか。ちなみに切り身がふたつは入いった鯛も少しお高いので、最初、勇気いりました。

 買ってきたら、すぐ塩をしてキッチンペーパーに包む。そうするとより濃いうまみがおいしいのだ。この便利な厚いキッチンペーパーってのも今ですね。

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