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スペースバンパイア エロ、実は哲学

スペースバンパイアは、日曜洋画劇場の淀川長治さんがお気に入りで何度も再放送されていた。

意味がわからない映画だった。若くて品のいい美女が裸でバンバン出てくる。最初は堂々とみれるエロとして楽しんでいたが、話が分かってくるとポルノのようだがなんとも心惹かれる話だった。美術も美しくてしみる。

監督は悪魔のいけにえの人らしい。ホラーは苦手なんで見たことはない。

その後、村上春樹のお気に入り翻訳アンソロジーで原作があるのを知った。宇宙ヴァンパイアーっていう題名だ。早速読んでみた。これが哲学していて面白い。翻訳も素晴らしくて復刊されたのだ。

作者はコリン・ウィルソンという、労働階級から哲学者になった万能の人らしい。イギリスに怒れる青年たちと呼ばれる人たちがいたらしいのだが、その精神的指導者のひとりだったらしい。その彼の少ない小説だった。いわゆる庶民むけのB級小説のフォーマットを借りて彼の思想を表現したものだ。だから、くだらなくて面白い。一気に読んでしまった。

彼は私の父と同じ年だった。ちなみに小松左京も同じ年。14歳で第二次世界大戦の終結を見届けた。この人達に共通するのは拭い去れない虚無感かもしれない。思い込みかもしれんけど。

私の町の本屋さんにいっぱいあった戦争と労働運動の影の深い本たち。松本清張や山本周五郎。なじみのある世界だったから、何だか分からないけど感動したのだな。

ちなみに解説によると、村上春樹は映画はもひとつだったらしい。私は謎の美女が好きだった。どうやら、彼女はフランスのユダヤ系の大富豪の娘さんのインテリ女優だった。富豪の芸術家を演じたフランス女優レア・セドゥに境遇似てますね。あの傲慢感、誰にも出せるもんじゃないです。彼女もだまされたって怒ったのですかね。

80年代初頭のでたらめが許される社会の雰囲気とか、きちんと意図が分かって演じられた演技。何とも言えない悲しみ。

SF大作でこけてしまった映画らしいけど、監督と脚本の意図は分かるよ。人間って悲しいよ。原作はなんでかアマゾンの中古で売ってしまいました。若いころのどっかにいる私に届けたくて。


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