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「アンダーカレント」今から始まる映画

評判がいいので今泉力哉監督の「アンダーカレント」を見に行った。うん、心に響いた。最初の銭湯の湯船のシーンから好きだって感じた。
ヒロイン役の真木よう子、ここんとこ肩に力が入りすぎた演技でピンとこなかった。でも、いい監督といい役者たちで、こうもいい感じになるかと感心した。彼女の代表作になると思う。

原作の漫画は10年ぐらい前にフランスでも評判になった作品らしいのだけど、ストーリーは小川洋子みたいだって思った。現実に踏み込んだファンタジー。私は彼女の小説が原作のフランス映画の「薬指の標本」が大好き。
あの作品は、工場から怪我により跳ね除けられた映像で、原作より貧しさの絶望に踏むこんでいて好きだった。

このストーリーも脚色もあるのだろうけど、より貧しさに踏み込んでいて、辛うじて生き残っている銭湯とそれを支えるコミュニティを感じさせる。
東京近郊の千葉が舞台であるのもかも。寂れてますね。そのなかで現実とファンタジーの間が描かれている感じだ。

特にリリー・フランキーが出てくるあたりは好きだ。ファンタジーな設定で語られる自殺が一日百人はいること、年間八万人の人が失踪して決して帰ってこないこと。遊園地の場面がいい。そして、彼が場面に合わせてしているネクタイの不思議さ。
彼らが何故消えたか。決して理由はわからない。本人たちでも怪しいと思う。そして、そのいきづらさがなかったこととして、私達は嘘を生きている。それが今を感じさせる。

この映画のテーマのひとつは生き抜くための嘘だと思うけど、嘘であることを率直に示し合い、わかり会えないことを前提で助け合って生きていくことって大切だなって思う。こう書くと堅苦しいけど。
うん、最後の主人公を助けた男がが隣人に諭されるシーンも硬かった。ちょっと、映画の流れを逆らっていた。

この映画では嘘がいたるところにある。しかし、それを曖昧模糊とする水の風景が美しい。舞台は経済や身分を溶かしてしまう銭湯である意味は大きい。大人の恋愛映画だと思う。
青春の挫折感と日常を町で描いていた今泉力哉も中年期になって、町をでて外側の自然を描くようになったんだと湖や海の風景を堪能しながら思った。


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