雑文

 さて、戦時下である。いつから戦時下なのかは分からないが、少なくとも去年からはそうだろう。幸か不幸か、われわれには「戦争協力」とか「動員」とかいった事柄を省察する機会が与えられた訳だ。まぁ、一個人としてはそんな機会いらなかったけれど。
 今、何をなすべきか。これまで通りの生活をできるだけ続けることが一番大事だが、考えるというのもまた大事だ。かつて大東亜戦争中に、田中美知太郎がプラトンを読むことに没頭し、古典から現実批判を持ち帰ってきた努力と同じことがまた求められている。それが現実をすぐには変える訳ではないにせよ。

…とまぁ、エラそうに力んで書いてしまったが、以下は最近漠然と考えていることどものメモだ。そもそも私自身、日頃は考えるなんて面倒なことはしない。

➀自然の問題
 「自然は隠れることを好む。」 『イシスのヴェール』をアドは、ヘラクレイトスのこの謎めいた箴言の省察から始めているが、彼はそもそもヘラクレイトス自身が深遠な意味をこの箴言に込めていたのだろうか、と問う。ちなみに最晩年の田中美知太郎は、これを「生地はとかく蔽われがちだ」と訳した(『古代哲学史』文庫版282頁)。哲学はずっと自然を問うてきた訳だが、それはどんな仕方でか。米虫正巳『自然の哲学史』がこの問題を真正面から扱っているようだ。
 案外、一見抽象的な思索が、昨今の気候変動問題などを考えるのにも役立つのかもしれない。まぁ哲学は「役に立つ」を掘り崩すのも仕事なのだが…。

➁主体形成の問題
 われわれはどのように主体になるのか。外的な力によってか、それとも内的な、自分自身の意志によってか。『主体の解釈学』のフーコーは、主体「となる」ための<技法>を探求しているように思われる。恐らく意志ではなく技法が主体を形成する。アルチュセールがパスカルを引用しつつ、イデオロギー装置を考察したように。

③シモーヌ・ヴェイユと数理哲学
 ヴェイユの科学関連の論考は非人称的に(つまり彼女の生き様とは別に、テクスト単体として)読みうるし、それがこれらのテクストの可能性を拓くとも考える。その際同時代の数理哲学とつなげることはできるだろうか。素人目には、カヴァイエスやロトマンのテクニカルな論考に比べれば、ヴェイユのそれは大味に見える。むしろ文明論に近い。とは言えブルバキを通じて何らかのつながりは確保されうる…?
 余談だが、最近出た『数理と哲学』で述べられた著者中村大介氏の来歴は興味深い。物理学徒が『テロルの現象学』を経て哲学徒に変貌した。笠井潔経由でヴェイユに触れたのか、中村氏は笠井氏の問題意識をヴェイユの思想に拠りつつ展開したいと述べる。氏の中ではエピステモロジーとヴェイユは不可分になっているのだろうか。
 また、『数理と哲学』に探偵小説論が載っているのも面白いし、この本の合評会で話題に出た『文学少女対数学少女』にこの論を適用したらどうなるかというのも興味をそそられる。

④ルクレティウスの読みなおし
 20世紀にはセールやドゥルーズ(さらに今世紀にはそれを受けた江川隆男)の解釈がある訳だが、本邦には寺田寅彦の論考がある。そしてルクレティウスも寺田もそれほど読まれているようには見えない。じゃあ読んでみるか、と。後はセネカの(これまた彼の倫理関係の論考ほどには読まれていないだろう)『自然学研究』とのつながりを考えよう。

⑤エロマンガの問題系
 今私がハマっている作品、りふる『俺にだけ小悪魔な同級生~フったら押し倒されました!~』について。本当はもっと突っ込んだ考察をしたいのだが、今の私にはその能力はない。作品が気になったらググってください。
 とりあえず考えるべきは2つ。女性優位と男(主人公)のイキ顔だ。
 まず前者。性行為は今のところヒロイン主導である。主人公はひたすら好意を寄せられ、甘やかされている。この女性優位は男性向けエロ漫画では珍しいかもしれない(逆レイプものとかたまにあるが)。勿論、私は女性優位をもってして、「エロ漫画が単に女性を欲望の客体として扱っている訳ではないのだ!」とはしゃぎたい訳ではない。性行為のシチュエーションからして、本作はショタものの延長線上にあると考えられる(りふる氏はショタものも描いている)。果たしてショタもののヒロインは、欲望の主体として能動性を発揮しているのだろうか? むしろ女性側が欲望の主体として振る舞うという構図自体が消費されていると見るべきだ。やはりショタものと考えると、女性優位はそれほど珍しくもないのだろうか。
 また後者について。行為中もしくは行為後に、主人公の快楽に蕩けきった顔がアップになるコマが散見され興味深い。通常ここまで男の側の快楽が、顔で表現されることはないのではないか(例えばそれは、大量に放出された精液や断面図などで表現されるのが普通だ。そして女性側が男性に快楽を与えられている方が画面としては強調される)。これはBLの文脈から見るべきかとも思ったが、残念ながら私には詳しい知識がない。

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