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903の、ありがとうございました

『鶴かもしれない2020』が千秋楽を迎えて、もう2週間が経ちました。

日常というのは本当に色気もへったくれもなくて。あんなにお祭りみたいな日々も過ぎればあっという間にいつもの日常に押し流されて、僕たちはその波に溺れないようにするのでいっぱいいっぱい。あの駅前劇場という限られた空間の中で目撃した「秘め事」もたちまちに過去へと追いやられてしまう。あっけないものです、演劇なんて。終われば、何も残らない。

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だけど、だから好きなんだろうな、とも思います。ずっと続くお祭りは、つまらない。打ち上げ花火みたいにぱっと咲いて、ぱっと消える。うっすらと瞼の裏に鮮やかな光だけを灼きつけて。そういうところが、演劇の魔力なんだろうな、と。

すでにご報告にありました通り、最終的な総動員数は903名となりました。目標の800を遥かに超える数字で、お運びをいただきましたすべての方々に、創作の過程を記録し続けた者としてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

そして、たったひとりで903名。

本当に、本当にすごいと思う。おめでとう、みっちー。

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みっちーと会ったのは、千秋楽の次の日。14日の夜の渋谷でした。

道玄坂の途中にある焼き鳥屋さんで落ち合って、ふたりで盃を重ねながら、この166日を一緒に振り返りました。

その日のみっちーは本当に楽しそうで。でもそれは決して800という目標を超えたから、だけではなかったように見えました。もちろん、たくさんのお客様が観に来てくれたことは、うれしい。ものをつくる人間として、自分のつくるものに関心を向けてくれる人がいることほどありがたいことはないだろう、と思います。

どうやら途中からは、今、どれぐらいの予約が入っているかを確認するのはやめたそうで。それはもちろん、数字に必要以上にとらわれてしまって、創作に集中できなくなってしまうことをよしとしなかったからだと思うけど。

数字はやっぱり数字でしかなくて。これはあくまで僕の意見ですが、結局本当に大切なのは、足を運んでくれたひとりひとりのお客様にどれだけ向き合えるか。どれだけ喜んでもらえるか。そしてどれだけ自分が納得できるものをつくれるか。シンプルだけど、そこにしか答えはないんだということを、この166日が改めて教えてくれた気がしました。

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そして、昨日千秋楽を終えたばかりのみっちーの目は、もうすでに未来に向かっていました。

あんなに苦労してつくった舞台美術はあっさりバラしたと笑っていて。そこに変な執着がないところも、なんだかみっちーらしくて、僕までおかしくなった。

千秋楽を終えた時点で、すべては過去。叶えた夢はそっと引き出しにしまっておいて、次はまた自分の最高記録を塗り替えにいくだけ。そうやって進んできたんだと。そしてこれからもそうやって進んでいくんだと。けたけたと楽しそうに笑いながら、次の構想を説明しはじめたみっちーの表情が語っていました。

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今度のみっちーの挑戦は、『May be a Crane 〜鶴かもしれない〜』。舞台芸術に携わる国内外のプロフェッショナルが集うTPAM(ティーパム) – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜に、『鶴かもしれない』を引っさげて挑みます。

タイトルからわかる通り、見据えているのは海外。このTPAMをきっかけに訪れる国際色豊かな観客の目に、『鶴かもしれない』はどう映るのか。また新しい小沢道成の挑戦が始まります。

演出もがらりと変えると言う。

今度の『鶴かもしれない』は、映像を使った演出が見どころのひとつになるそうだ。好奇心旺盛なのか、飽き性なのか。一回やってできたことは、もうやらない。そんなところも、彼らしい。

ただ、正直に言うと、僕は懸念の方が大きくて。だって、この『鶴かもしれない』の面白さは、『鶴の恩返し』という民話が下敷きになっているところだから。日本人なら『鶴の恩返し』はほぼ誰もが知っている。だけど、海外のお客様はまず知らないだろう。だから、この『鶴かもしれない』の面白さが正しく伝わらない気がしたのです。

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でも一方で、10着の着物が衣装に用いられる日本らしいこの演目は、海外の観客の興味を引きやすいものであることも間違いない。

いつかは海外でお芝居もしてみたい。そう胸を膨らませていた小沢道成にとって、これはその足がかりとなる。そびえたつ岩壁にまずここでハーケンを打ち込み、さらに上へと登っていく。その姿を想像すると、なんだかこっちまでドキドキしてくる。

あわれで、いとしくて、優しくて、愚かな、小沢道成が演じる鶴子は、横浜の地でどんなふうに迎えられるのだろうか。

彼が見る夢の続きを、これからも客席で見守り続ける。小沢道成の夢は、応援するすべての人たちの夢でもあるのだ。

EPOCH MAN『May be a Crane 〜鶴かもしれない〜』

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2020年2月10日 ~ 2020年2月16日

横浜・yoshidamachi Lily

■小沢道成Twitter:@MichinariOzawa

■EPOCH MANホームページ:http://epochman.com/index.html/

<チケット受付>
ぴあ:https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1958382&rlsCd=001

ローソンチケット:https://l-tike.com/play/mevent/?mid=496896

<文責>
横川良明(@fudge_2002)

<舞台写真撮影>
moco

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