Ars longa , vita brevis

坂本龍一氏の訃報を知った翌日、epulorに一つの郵便物が届いた。ずいぶん前に注文していた彼のアルバム「12」だった。彼の遺作となったレコードだ。注文したことをすっかり忘れていた僕は、まるで彼からの最後の贈り物として届けられたような気持になって、とても動揺した。再発版の予約注文だったので同じタイミングで同じような感情を抱いた人が他にもいたに違いない。でも、僕はこのレコードを本当の彼からの贈り物だと思うことにしている。不確かであっても、この時に想った気持ちを大切にしたい。

このアルバムの12曲は日記のように日付のタイトルで構成されている。闘病生活のなかで、体調がいい日に音を浴びたくて作成したのだそうだ。おそらく彼は、これが自分の遺作となることは意識していたのだろう。彼はどんな気持ちでレコーディングしていたのだろうか。自分の創ってきた音楽を、どのように振り返ったのだろうか。そんな事を考えながら、このアルバムを聴いていると、どうしようもない気持ちになる。

Ars longa , vita brevisは彼の好きな言葉だったそうだ。ラテン語で、芸術は長く、人生は短し、という意味だ。古代ギリシアの医学者ヒッポクラテースの著書「箴言」の一部であり、もともとは医療技術を意図したことだったそうだが、芸術の解釈で用いられることが多いようだ。ストア派哲学者セネカは「人生の短さについて」という書物の中でこの言葉を引用している。そこには、振り返るべき価値のある過去を創り上げることの重要性が触れられている。

自分のルーツ音楽がクラシックであることの重要性を強く意識していた彼に一つ言いたい事がある。僕の音楽のルーツはテクノです。あなたたちが創り、ここに残した音楽です。

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