見出し画像

秋・冬に聴く音楽

めっきり寒くなりました。
私は慢性的な冷え性持ちなので、とくに手先がかじかんで絵が描きにくくなるような寒い季節は苦手です。根本的に解決するには運動をして、新陳代謝を上げていくのが一番だと分かってはいるのですが、そもそも寒いので動きたくない!みたいなね。

でもまあ、その代わりに「この季節ならではのささやかな楽しみ」みたいなのもいくつかあって。温かい食べものが美味しいとか、牛乳が濃く感じるだとか、あるいは休日の二度寝の多幸感だとか。それらに並んで、寒い季節にぴったりの音楽へより感情移入できるようになる、というのもあります。

外に出かけるときはよくヘッドフォンをして、スマートフォンのGoogle Play Musicで音楽を聴くんですけど、なぜか寒いところで聴くとじーんと沁みる曲って、わりとあるように思います。特にどのジャンルが、というのでもなくて、いろいろなジャンルの音楽のなかにそういうタイプの曲がひっそりと紛れていて、たまたまハマると、なんだか普段聴くよりもいいなあ…みたいな。

え、ない?じゃあ、例えばこういうの…って感じで、自分の場合はどういう音楽が秋・冬に合うかなというのを、ちょっと考えてみました。

ジャンルはバラバラです。テンションとしては、「イェー!」っていう感じでは全然なくて、しみじみと「ああ~いいなあ~」みたいなやつです。アッパーよりダウナー、メジャーよりマイナーで、無理して元気にならなくても、寄り添ってくれる音楽というか。

どうせ春までは寒いんだし、せっかくなら日々楽しく過ごしたいよ。
(でも、音楽を聴く余裕すらないくらい寒くてひもじいのはイヤ。)

Máximo Diego Pujol "Tres Piezas de Otoño"

プホールというアルゼンチンの作曲家がアコースティックギター・デュオのために書いた曲『3つの秋の小品』より「センテナリオ通り」です。福田進一さんというクラシックギター奏者が好きで、そのアルバムで知ったのですが、このYouTubeのデュオもとってもいいですね。なんだか切ないメロディと、かわいらしい掛け合い、ほっと暖かい感じで終わります。

この曲については昔、自分のブログの記事としても書きました(M.D.プホール『3つの秋の小品』 | EPX studio blog)。ご興味がありましたら。

Frederic Robinson "Flea Waltz"

フレデリック・ロビンソンによるこの曲と同名のアルバムは、ちょうど去年の秋にずーっと聴いていました。本当は"Colder"っていうヴォーカル曲があって、日に日に寒くなっていくこの時期の空気を閉じ込めたような曲でそちらを紹介したかったのですが、YouTubeに上がってなかったもので。

このアルバムすごくいいですよ。他の曲も上で聴いていただいたような感じで、ドラムンベースやフットワークみたいな速いダンスミュージックを下敷きにしながらも、生音を多用したナチュラルで優しい感じの曲になっていて、めちゃめちゃ個性あります。秋冬の晴れた日に外で聴くとハマります。

Astor Piazzolla "Tangata"

そもそもなんで今回この記事を書こうと思ったかというと、私が冬に一番聴きたくなる音楽ナンバーワンが圧倒的にタンゴだからなのですね。え~冬にタンゴ?と思われるかもしれませんが、いいですよ!合います。バンドネオン(アコーディオンみたいな楽器だ)の金属的な響きが、キンと冷えた空気に不思議と馴染むのです。

タンガータ』はアストル・ピアソラの代表曲のひとつで、元は3楽章からなる組曲の終曲だったものを、単体の楽曲として後期五重奏団のレパートリーにしたものです。バンドネオン・ソロのイントロに始まり、しっとりとしたヴァイオリンが入ってきて主題が繰り返されると、ギター→ピアノの順にジャズ的なソロの見せ場が来ます。快活な中盤のパートを経て、4分半くらいからがヴァイオリン・ソロ。そこからじわじわとクライマックスへ向かって行って、7分くらいのところで最も劇的な瞬間が訪れる。

それぞれの楽器に物憂げで美しいソロがあって、全体としてドラマチックな結末へとなだれ込む儚さ、最後の一瞬の輝きみたいなものがノスタルジーを誘う。8分間に満たない曲ですが、いつもこれを聴くと映画を一本観たような、不思議な感覚になります。ピアソラは、タイトルそのものが『ブエノスアイレスの冬』みたいな、四季をテーマにした曲も残していますよね。

Dino Sabatini "Choosing the Right Way"

ディノ・サバティーニのこの2016年のアルバム"Omonimo"は、全曲のプレイリストがレーベル公認でYouTubeで公開されています。憂鬱で瞑想的なスローなダブ・トラック集なのですが、夜に外を散歩しながら聴くと、アガるでも落ちるでもなく、なんというかすごくいいテンションの酩酊状態になれます。

アルバムの後半にはジャズ・ミュージシャンのアントネッロ・サリスを迎えたもっとエモーショナルな曲もあって、時間にたっぷり余裕があるときに全体を通して聴くのがいいです。もしかして一曲二曲だけ聴いても良さが分かりにくいかも。でもねいいですよ。このアルバムは本当によく聴きます。

Chopin "Etude Op.10-6"

クラシックでよく聴くのは古楽が中心なのでショパンはさほどツボではないのですが、どこで出会ったのだか、この曲は初めて聴いたときからすごく好きでした。超絶技巧の難曲揃いのピアノ練習曲集のなかでもこれだけ少し浮いていて、妙にシンプルで寂しーい、暗い曲なのです。でもこの、変ホ短調の曲が、最後の最後の一音でまさかの長調になって、暗闇の中にぽっと火を灯すようにして終わるの、めちゃくちゃ美しくないですか?(「ピカルディ終止」というのだそうです)

ちなみにこのMIDIアニメーション、Stephen Malinowskiという作曲家兼エンジニアの先生が長年にわたる研究を経て完成させたもので、氏のYouTubeチャンネルには制作されたアニメーション作品が大量にあります。楽譜を追うのとはまったく違う、声部や調や主題ごとに「視覚で音楽を聴く楽しみ」があって、大変おすすめです。

Agustín Bardi "Nunca Tuvo Novio"

最後は、ちょっと寂しくも幸せな曲を。古いタンゴのナンバー『恋人もなく』を、ロドルフォ・メデーロスがバンドネオン・ソロに編曲したものが素晴らしいです。このささやかな、優しい音楽!またこの巨匠のおじいちゃんの演奏がしみじみと沁みるんだ。タンゴの記事もいずれ書きたいと思っています。

というような、とりとめのない感じで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?