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I Hate Models@VISION

7月19日金曜、何年か前から好きで追っかけてきたフランスの若手テクノアーティスト、I Hate ModelsがDJで来日するというので行ってきました。渋谷のVISIONで行われた"ALIVE presents THE CROSS"というパーティー。

VISIONに遊びに行くも随分久しぶりで、ブランクはたぶん4、5年じゃ効かない。立地の良さとフェス感のあるレイアウトは好きな箱だけど、昔は音が良かった印象があんまりないので、期待しすぎないように…と構えていたら、思いのほか良かった。

ちなみにRebootもいまVISIONでやっていて、ここのところ外タレテクノDJの来日がすごいことになっている。7月から8月にかけてDJ Rush、I Hate Models、Regal、999999999と、毎週のようにすごいアンダーグラウンドなガチの硬いテクノが聴ける。波が来てますね。

I Hate Modelsはどういうアーティストか

わたしが初めてI Hate Models(アイ・ヘイト・モデルズ)という変わった名前のアーティストを知ったのは2017年で、たぶん普通に好きなレーベルの新譜として見つけたんだったと思う。それがなんか、どういう文脈で出てきたのがさっぱり分からないような、妙にオールドスクールでバンギンなハードテクノの上に、トランスみたいにメランコリックなシンセが重なった、変な曲ばかりだったんですよね。

しかもこういうのが昔気質のハードテクノ界隈から出てくるなら分かるんだけど、ArtsとかDax JのMonnom Blackとか、わりかし渋めの新進ニュースクールテクノレーベルから出ているのが不思議で、何が起こっているんだと思っていた。そしたら、ここ何年かで目に見えてレイヴ回帰のムーヴメントが起こっていることが徐々に分かってきて、ベルクハインとかでもハードでレイヴィーなテクノがガンガンかかっているらしいみたいなことも聞いて。

で、どうもこのI Hate Models、めっちゃ若いっぽいんですよね。この動画とか見てびっくりしちゃって。線の細い小柄な青年が、バンダナを巻いて覆面とかして、自分の曲をかけてメチャクチャ踊っていて、そのピュアさがすごい好きになってしまった。これはテクノの快楽の原点では!? みたいな。

曲最高なのに客の反応がいまひとつなところも含めて好き

2017の時点で一度来日していたみたいなんだけど、ちょうど自分が知ったのがそのあとだったので、次に来るときは絶対に行こうと思っていた。そのうちにAwakeningsに出てバッキバキのプレイをしていたりして、確実にキャリアを積み上げてからの、今年のPerc Traxからの初めてのアルバム"L'Âge Des Métamorphoses"のリリース。まさに今というタイミングでの再来日でした。

テクノの持つ「ハード性」の越境

いやI Hate Models、意味わかんないくらい良かった。ぶっ飛んだ2時間。

共に来日したベルリンのフィメールDJ Nur Jaberが素晴らしく暗くヘヴィーなプレイで、BPMも130後半くらいの走っててハマれるタイプの曲が多かったんだけど、I Hate Modelsにスイッチした瞬間さらにガツンとギアが2段階くらい上がった。

おそらくはずーっと145BPMを超えていて、しかもただ速いだけでなく、テクノ、トランス、UKハードハウス、シュランツみたいなタイプの異なる曲をボーダーレスに高密度圧縮したようなスタイルのDJ。別に、特別な機材は使わない普通の3デッキのCDJなんだけど、ブレイクにどんどん次の曲を被せてくる前のめりのミックスで、選曲も含めて無茶は無茶のはずなのに、不思議と強引さを感じさせない。彼の曲の世界観がめっちゃ表れていた。

おなじみの覆面スタイル

速い4つ打ちをかけるDJは他にもいるんですよ、全然。でもここまで先入観を排した、いい意味でこう、90~00年代のハードテクノの文脈を斜めにぶった切って繋げたような、そんな自由さある? みたいな選曲だったのです。もちろんファンだし事前にいろいろミックスを聴いててそういうスタイルなのは知っていたわけだけど、マジで全身全霊でやってくれた感じですね。

こういうシュランツみたいなエクストリームなのもあれば、レイヴィーな最近のモダンテクノみたいなのもあり、かと思えばTinribみたいなフーヴァーシンセがワンワン言ってる往年のUKハードハウスみたいな曲もあったり、トランス風のメロディアスなウワモノがあったり…。このジャンルはこう、みたいな凝り固まった蛸壺化に、若々しいエナジーで抗うような、ハードスタイルなテクノの持つ原初の恍惚にひたすら忠実なDJだったのでした。

動画のクリップを見てもらえれば雰囲気は分かるはず…。本人のアガりかたも最高で、ブースの何もないところをバンバン叩いたり、ヘッドフォンを振り回したり、挙句上半身裸になってフロアに飛び込んだりして、やりたい放題やってた。君最高だよ。

深い時間だったこともあってか客層も良く、ズブズブにハマれた。本当はあまり写真とかも撮りたくないくらいだったけど、ひとりで遊びに行ってたし、これはなんか誰かに伝えないといけないヤバいことが起きている! というような感覚があった。案の定限界まで踊ってしまい、腰から下の筋肉はすべて爆発四散。翌日はほぼ怪我みたいな感じで使いものにならなくなってしまった。

テクノはふたたびハードになった

わたしはBPMが速いばかりがテクノのハードさだとは思わないし、ましてやリリースされている楽曲のBPMの値の変化だけを見てそう言うわけではないんだけど、やはり近年のテクノは90年代後半~00年代前半のハードさを取り戻しつつある。それはレイヴ回帰がそうではないように、必ずしもテクノおじさんの懐古趣味に基づくものではなく、もっと原理的な、若手アーティストとオーディエンスによるハード的快楽の再発見というか、そういった価値観への新たな志向と言えるものだと思う。

I Hate Modelsの音楽は一見、不格好でいびつで、その世界に没頭する彼自身の姿も若干引くほどフリーキーで、クールではないかもしれないけれど、「テクノってそういうとこあるよね」みたいなすっごい基本を改めて教えてもらったような気分。目を開かせてもらった。同時に、こういうアーティストが重宝がられる時代の空気も、なんとなく読めてくる気がしますね。

とりあえずこれを観ればI Hate Modelsが分かる

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