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後ろ向きにマクドナルドまで歩く授業

最近新しく始めたことって何かありますか?
だいたい、年初め、年度初め、誕生日なんて日から何かを改めたり、始めたりする方は多いと思いますが、ぜひその際は知識を得るだけの行為ではなく、体験、行動を伴うようなことを始めていただきたく思います。

学問なき経験は経験なき学問に勝る、といいますが、これに僕は心底同感します。
机上対現場、どちらの方が人の記憶に残るかというと、圧倒的に後者ですし、実際に自分の学生時代の記憶を呼び起こしてみても(じぶんが聡明でなかったせいもあり)座学よりも、実技や校外学習の方が鮮明に思い出せます。

そんなこんなもあり、僕の授業では体験授業を比較的多く取り入れています。今回はその中から[後ろ向きでマクドナルドまで歩いていく授業]というものをご紹介します。

熊野「みなさん、おはようございます。今日は校外学習です。やったー」

学生「先生、遠足ですか?フィールドワークですか?」

熊野「うーん。まぁ遠足といえば遠足ですが、フィールドワークといえばフィールドワークで。遠足もフィールドワークといえばフィールドワークなので、つまるところ、フィールドワークのようなものです」

学生「意味がわからないですね。で、何をするのですか?」

熊野「学校から歩いて30分ほどのところにあるマクドナルドに、ここにいる20〜30人のクラス全員で後ろ向きで歩いて向かいます

学生「ええええ!!後ろ向きにですか?」

熊野「はい。なので前回今日は歩きやすい靴で来てくださいと申し上げました。ヒールとかブーツはダメですよと」

学生「しんどいです!ダルいです!」

熊野「みなさん、全員無事にたどり着けた暁には100円マックを僕が全員に奢ります。その代わり事故や、他の通行人の妨げになるような移動の仕方にはくれぐれもご注意ください」

しぶしぶ表に出る学生。
点呼を済まし出発します。

スマホで動画を撮りながら後ろ向きに歩く学生、調子にのって軽く後ろ向きに走りながら向かう学生、友達と手を繋いで後ろ向きに歩く学生。僕自身も後ろ向きに歩きながら学校から街へと向かいます。

すると、下校中の小学生から「お兄ちゃんたち、何やってるの?」と聞かれます。女子中高生からはスマホのレンズを向けられます。子連れのお母さんは「見ちゃいけません」的なことを子どもに言います。おじいちゃんからは「若いっていいなぁ。何やってるかわからんけど、がんばりぃやぁ」と声がけされます。

学生みんなで反応してくれた人たちにヤアヤアと挨拶し、テクテクと、前向きに歩くと30分で着くところ、後ろ向きで歩くことで約1時間かけてマクドナルドに到着。
一息ついて、学校に戻ります。

熊野「さて。いかがでしたか。後ろ向きマクドナルド」

学生「疲れました。でもとても楽しかったです」

熊野「どのあたりが印象に残って、楽しいという記憶になりましたか?」

学生「道ゆくいろんな人から声をかけてもらったことです。今まで学校からマクドに行っても当然ながらみんな無反応」

熊野「でしょうね。でも今日は、後ろ向きに歩いただけでいつもと違うコミュニケーションが生まれた」

学生「うんうん」

熊野「僕はそれが『芸術』だと考えてます。今回は特に思想やコンセプトなく単に集団で後ろ向きに歩きましたが、その行為によって街の人たちが様々な反応をしてくれました。そしてその反応をみなさんは自身の身体でライブに感じた。それってアートな経験だと思いませんか?

表現者と鑑賞者が双方向に作用し合って、何かしらの心のざわめきを生み出し、結果コミュニケーションが生じた。そしてこの体験の記憶はみなさんの脳に刻まれた。この一連のことが、何も作らず、お金もかけず、あ。厳密にいうと僕の財布からは幾らか無くなりましたけど(笑)できちゃう。

芸術表現って言葉にすると大層だけど、実際これも立派なパフォーマンスアート表現でしょ? 今日はみなさんに『芸術』や『表現』のあり方を考えて欲しくて、体験していただきました」

学生「おもしろかったー」

熊野「知識も大事だけど、体験はもっと大事。自分で体験したことは、人生の分かれ道において判断の指針となりますが、知識だけだと自分ごと化できていないので、あまり役には立たないケースがほとんどです。だからみなさん、もっと人と付き合って、もっと遊んで、もっと旅行に行って、もっと自らいろいろ出向いて勉強して、人生の体験を増やしていってくださいね」

学生「はーい!」

音楽を耳で聴くことよりも、音楽を身体で感じる体験、映像で世界を見ることよりも、実際に行って世界を体感すること。
身体に情報を覚えこませると、その後の人生は確実に豊かになります。





Text : 熊野森人 (@eredie2)
Illustration : ぎだ (@gida_gida)

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