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危険! 時間とお金が溶ける「エルマーのぼうけん展」

数年前、実家で発掘した『エルマーとりゅう』の表紙をあらためて見て、びっくりしたことがありました。いくら逆光の場面を描いたとはいえ、森の中とはいえ、不吉な予感さえ抱かせるほどの暗さ。

足元で円陣を組んでいる鳥の輝きとのコントラストを出そうということなんだろうけど、主人公の顔が逆光でこんなに暗くなってる装画ってなかなかない。

左がシリーズ2巻目の『エルマーとりゅう』、右が1巻目の『エルマーのぼうけん』。実家から数十年ぶりに発掘してきたので、カバーがよれよれです。でもその破れやかすれが「私の本!」という愛着を増すんですよね

ほんとにこんなに暗いの? もしかして印刷の問題だったりして……と福音館のサイトを覗くと、表紙画像はやっぱり強い逆光。なんならこっちのほうが黒い。

福音館書店のサイトにあった表紙画像。エルマーの白目がややコワい

あれ……?

左右反転してる。

私の本はエルマーが右を向いていて、福音館の画像では左向き。私の本は1984年の新版24刷だから、その後に変更されたのでしょう。あるいは、新版のときに変更して、そのあとにオリジナルに戻して今にいたるのかもしれない。題字も微妙に違います。

原書→日本語初版→日本語新版→日本語現行版と変わる間に、何が起きてたんだろう? そんな疑問をぼんやりと抱いていたところに、なんと、日本初の原画展が開かれるとのこと。行ってみなくては!

場所は、立川駅から徒歩10分ほどの「PLAY! MUSEUM」。こんなに新しい、素敵な美術館ができていたんですね、知りませんでした。

エルマーの相棒のりゅう。等身大かもしれない。わたしのイメージより若干小さい。
私自身が大きくなったせいだと思われる。
サイの泣きべそプールにうっかり入ってしまい、サイの角でつまみあげられるエルマー。
なつかしい!
たてがみモシャモシャのライオンと対面するエルマーの原画。原画ならではの繊細なグラデーションに目を奪われます。そして原画は驚くほど小さく、たぶん本として印刷されているサイズとほぼ同じ。このサイズで、モノクロで、どうしてこんな柔らかい質感が出せるの?? モノクロの絵でも、画材は鉛筆と絵具とのこと。絵具はどんな風に使ってるんだろう。
しばらく歩くと遊歩道が途切れ、その先にははんぶん水に浸かったワニが。この上を歩いて先に進む。足の下に感じるぐにゅっとした感触で「踏んじゃって申し訳ない!」という気持ちになる。
そうそう、ぼうつきキャンデーでワニの橋をつくるんだよね。

そして、ありました! 例の装画の原画が。

エルマーは左向き。

すなわち、わたしが持ってる「新版」が左右逆版だったわけです。ようやく、疑問が解けました。(右開きか左開きかを考えて日本語版を逆版にしたのかなと思ったけど、むしろ日本語版は逆版にしないほうが自然に開ける気もする)

140点に及ぶ原画はどれも、「これこれ、この場面! 覚えてるよ!」と懐かしくて胸がきゅんとなるものばかり。たぶん、noteを含め、SNSで今後も写真がたくさん上がることでしょう。でも、原画のあのまろやかさは写真では味わえない。

なので、行けない人は市販されている図録(↓)を入手するのがいいんじゃないでしょうか。丁寧な印刷で、原画の息遣いが感じられると思います。

そのほか、「りゅう」のイメージをイラスト担当の義母と共有するために作者のルース・S・ガネットがつくったぬいぐるみや、地図のラフ図、完成した挿絵をダミー本に貼り、文字のサイズやフォントを検討したもの、採用されなかったカットなど、本づくりにかかわる人にとっては、見始めたら前から動けなくなる展示が目白押しです。溶けるかのごとく、時間が過ぎていきます。

エルマーをこの世界にいざなう猫はしましま。りゅうもしましま。エルマーもしましま。

そして、展示会場を出てからも要注意です。原画のポストカード、図録やぬいぐるみだけではなく、絶妙に「これほしい!」と思わせるオリジナルグッズが並んでいます。ここはお金も溶かす、恐ろしい場所です。

ぼうつきキャンデーは? ……ありますとも。
ライオンにあげたくし? ……ありますとも。
サイにあげた歯ブラシ? ……ありますとも。
りゅうが好んだみかんの皮? ……ありますとも。

サイの歯ブラシは柄が竹でできていて、りゅうの絵の焼き印入り。これ買ったら、パッケージも捨てられないだろうな
マスキングテープも買っちゃった。上は、入場者へのノベルティとしてもらったポップアップカード。

くれぐれも、財布のひもをきゅっと締めてお出かけになることをおススメします。それでも買っちゃうんだけどね……。

東京・立川のPLAY!MUSEUMで2023年10月1日までです。


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