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『最前線に立つ研究者15人の白熱!講義 生きものは不思議』ーー鯨骨生物群集とバイオロギング編

読書週間ですね。今日のような夏日と読書週間のとりあわせはややちぐはぐ感もありますが、気温はともあれ空気はからりと気持ちいい。木陰でのんびり読書するならちょうどいいぐらいかもしれません。

前回のアマミホシゾラフグ編からの続きですが、この記事はこの記事で完結しています。どうぞ気にせず読み進めてください。

本書には、前回ご紹介したアマミホシゾラフグ研究の川瀬裕司さんを始め、わたしがこれまで取材でお話を伺ったことのある、めっぽう魅力的な研究者さんがほかにも二人、名前を連ねていました。

目次の1ページ目を置いておきますね。

二人目は、鯨骨生物群集のロバート・ジェンキンズさん。

ジェンキンズさん(研究室サイト)は古生物学が専門ですが、れっきとした現生生物であるクジラの遺骸を食べて命をつなぐ生物たち、すなわち「鯨骨生物群集(げいこつせいぶつぐんしゅう)」も研究されています。

わたしはこの「鯨骨生物群集」の絵本を作りたいとかねがね思っていまして、ジェンキンズさんにお話を伺いに行ったことがあります。金沢大学へ。

ジェンキンズさんのお話や文章は、するする聴ける(読める)んだけど、聴き(読み)終わったときには、その領域の全体像がだいたい把握できてしまいます。頭の良さと親切心が同居している人なんだな、と本書を読んであらためて思いました。

たいてい、一人の人間の中にはその二つは併存しないですよね。だからわたしみたいな「翻訳者」の存在意義があるわけですけど、ジェンキンズさんには翻訳者がいらない。

それにしても、なぜ、古生物の研究者が現生のクジラにまつわることを研究しているのか。

ジェンキンズさんにとって、本丸はクジラではなく、古生物の海棲爬虫類。たとえば、クビナガリュウやモササウルスです。そして、彼らとクジラを、時代をまたいでつなぐものは……? その答え(となりうる存在)もこの本に書かれています。

三人目は、バイオロギングの渡辺佑基さん。

さて、三人目は「ナショナルジオグラフィック日本版」でわたしが紹介記事を書かせてもらった、渡辺佑基さん。

バイオ(生物)+ロギング(記録すること)で、バイオロギング。生物にGPSや深度計や小型カメラをつけてもらって自分の行動を記録してもらう、という、生物を研究する手法のひとつです。

ナショナルジオグラフィックの記事執筆にあたっては、半日ほどかけてたっぷりお話を聞かせていただきました。

渡辺佑基さんは、ジェンキンズさんに輪をかけて「読ませる」文章を書く人です。翻訳者の存在がいらないどころか、わたしは渡辺さんを「書き手」として尊敬しています。

自著を2冊出されていますが、いきなり本一冊はちょっとな……と思う人にこそ、本書『生きものは不思議』をお勧めしたい。15ページ程度で、渡辺さんの研究と文章の面白さを味わうことができます。

たくさんの研究者の魅力を一冊の本にまとめる「一本の串」

わたしもこれまで多くの研究者インタビューをやってきて、ものすごく面白い人の記事がたった一つの媒体に載っただけではもったいない。10人ぐらいまとめて書籍にできないものか、とよく考えました。

でも、何人もの主人公が並列で登場する本って、売れ行きを見積もるのがなかなか難しくて、企画の卵として編集者さんに相談しても「それなら一人を掘り下げるほうが企画を通しやすい」って言われてきたんです。

一人一冊ならもちろんいくらでも成り立つんだけど、そこまで興味を持てるかどうかわからない読者のための本がつくれたらいいのになあ。未知の世界の「チラ見せ」をさせてくれるような、とりあえず扉を開けて見せてくれるような。必ずしも奥まで足を踏み入れる覚悟がなくてもいい。面白そう、と思ったら、その後で入ればいい。と思ってきました。

本書はまさに、15人もの研究者が次々に自分の研究の面白さを語っていて、「これだよ」と思いましたね。一冊の本として世に出せたのは、「14歳の読者が進路を考えるときに役に立つように、自分の歩んだ道筋も紹介」という、全体を通す一本の串があったからだろうと思います。Good Job! 陰ながら応援しています。

はみ出しコラムのQ&Aがまた、味わい深い

本書にはところどころで、Q&A形式のコラムがはさまれています。これがまた個性的な回答ばかりで、読みふけってしまう。

Q1 研究テーマとしている生きもの以外で、一番気になる生きものはなんですか??

A 自宅周辺に住みついたインドクジャク。(中略)放っておいたらだんだん図々しくなり、うちのワンコまで威嚇するようになりました。(川瀬)

ええっ? 川瀬さんは千葉県立中央博物館分館の「海の博物館」の方だから、房総半島にお住まいのはず。なんでインドクジャクが自宅周辺に住みつくんですか、と気になってしかたがなくなる回答です。

Q2 生きものの研究をしたことで、人間を見る目やつきあい方は変わりましたか?

ううむ、なんとなく「深イイ答え」が期待されていそうな質問です。まずはみんな、YesかNoで答えるようです。数は少ないながら、Noの人もいます。

No. 鳥には損得はあっても善悪はない、という点で人間と異なります。研究すればするほど、鳥は人間の参考にならないとわかります。

ばっさり。

好きです、こういう「空気を読まない」感じ。この回答は、『鳥類学者だからといって、鳥が好きだと思うなよ』の鳥類学者、川上和人さん。

もう一つ、Noの方の回答を紹介しましょう。

No. 人間を見る目ができる前の小学生のころから、もう虫との付き合い方を研究してたので。

な、なるほど。

この回答は、進化生物学者で、本書では「サムライ・スネイルの作法」という章を書かれた千葉聡さん。カタツムリの交尾について書かれたこの章、めちゃめちゃ面白かったです。

勝手に親近感をいだいている人たち

そのほか、会ったことはないけど勝手に親近感をいだいている人とか、著書を読んで「この人好きだわ~」と思った人もいます。

  • 海岸にクジラが漂着したら、いまや日本全国の人がまずこの人を思い浮かべるだろう、『海獣学者、クジラを解剖する』の田島木綿子さん。

  • イルカの賢さを研究している『イルカが知りたい』の村上司さん

  • ボノボ研究者の山本慎也さん。ボノボだけを専門としているわけではないけれど、ボノボ研究者は少ないので、直接のご縁がなくても、勝手に「仲間」という気持ちで見てしまいます。

本書にはまだまだ面白い人が潜んでますが、あとは実際に読んでみてのお楽しみということで。何を隠そう、わたしもまだ全章は読んでません。ちびちび読んで、楽しんでます。


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