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個人の「やる気」に勝るものはない。 「転勤」をどう社員に伝えるか、こんな風に考えています

結局、個々人の"やる気"に勝るものはない。

マザーハウスには、さまざまな国籍や宗教、職歴や経験、考え方のスタッフがいますが、「人材」という観点においては、私は一貫して「やる気」をとても大事にしたいと思っています。

この記事では、マザーハウスが、個人のやる気を組織の力に結びつけていくための人事制度や、私が大切にしている教訓について書いてみたいと思います。

やりたい仕事を募る「公募」システム

個人がやりたい仕事に就いてもらうために、マザーハウスには「公募」という制度があります。

もちろん、公募は万能ではありません。本人がいくら希望していても、スキルが足りない場合や、やる気と仕事のミッションが一致しない場合には思った通りにいかず、本人が落胆し、周りもストレスを抱えるような場面をたくさん見てきました。

でも、本人の希望がないのに、組織の一方的な思いを押し付けることを優先するのは、絶対に正解じゃないと思うのです。そういう判断をして、スタッフが最高のパフォーマンスを出した事例の記憶はあまりありません。

育児や介護などに携わっていて、いわゆる「みんな」とは違う仕事のスタイルで働かないといけない人も、男女を問わず増えています。育児のために"早上がり"をしているスタッフもいますし、抜群の販売力で活躍しながら、転勤なしの「エリア限定のキャリア」を選んでいるスタッフもいます。

「5時には帰りたい」というお母さんやお父さんのスタッフの希望を聞くことと、組織のアウトプットを最大化することは、絶対両立できる。私はそう考えています。

「抜擢人事」も本人の気持ちを大切に

さて、本人の希望を尊重する人事とは別に、会社として「この人にこのポジションに就いてもらいたいな」と思うことがあるのも確かです。

たとえば、店長として評価の高い人に、「次は複数のお店を統括するエリアマネージャーになってもらいたい」という会社としての希望を伝えることがあります。本人の"やる気"が出てくるのを待っている時間はなく、ある程度会社の都合で"指名"をするというパターン。

そういうときは、何人かの候補者を指名して、一人ひとりと面談するというスタイルを長く続けています。面談では、ポジションの可能性を打診しつつ、お互い状況を相談します。

指名されたスタッフの中には「自分にはそんなポジションは難しいのではないか。スキルがまったく足りないのではないか」と驚く人もいます。(特に、日本人は自己評価の低い人が多い気がするのですが…。)

いずれにせよ、本人が思っているキャリアステップのペースよりも早く会社から指名があることは珍しくありません。いわゆる「抜擢人事」です。

でも、こういった場合にも、会社からお願いを伝えた後はギリギリまで「本人からの返事」を待つということを大切にしています。

ポジションを上げるにしても「本人のやる気」がまったくないと、必ず失敗すると思っているからです。

まず本人に聞いてみよう

多国展開するマザーハウスの人事において、「個人と組織の拮抗」が生じる場面は、「海外赴任の打診」かもしれません。

グローバル転居を伴う配置を承諾するかどうかは、入社時、そして入社後にも定期的にヒアリングしていますが、書類に書かれているYES or NOと、今そのときの気持ちが一致するとは限りません。

必ず本人に"今の気持ち"を聞くようにしています。重要な前提として「これから話すことは評価ではなく相談です」と強調したうえで。

「ある海外の現地駐在員のポジションがある。期間はとりあえず1年間。やってみたいと思う?」

あるとき、3人に声をかけたポストがありました。

1人目の男性はスキルは申し分ないし、グローバル転居OKのスタッフだったけれど、「せっかくの話なんですけど、僕、今は国内店舗の販売がめっちゃ楽しいし、もう少しがんばりたいんです!」とキラキラした目で言われてしまいました。

2人目の女性は、興奮気味に喜んでくれた。「行きます! がんばります!」。ただし、語学がまだ追いついていない。

3人目の候補者は、面談してみて異なる部署のほうが活躍が期待できると判断しました。

部門の責任者と悩んだ末、2人目に行ってもらうことにしました。やはり、"やる気"が成長の最大のエンジンだと思ったからです。ただし、期間はトライアルとしてまず3カ月間。3カ月経った時点で、本人と会社の双方の意向を再度すり合わせてその後で決めるということで、彼女にも納得してもらいました。

さて、このときに喜んだのは赴任が決まった彼女だけではありませんでした。最初に打診をした彼にとっても、大きなモチベーションアップにつながったんです。

「会社が僕に声をかけてくれた。今は受けられる時期ではなかったけれど、将来、本気でチャレンジしたいと思ったときには、きっとチャンスはもらえる」という希望をつかめたのだといいます。

「会社に期待される」という事実は、それだけで個人を大きくエンパワメントします。これは私が、一つのポジションの打診をあえて複数の候補者にする理由でもあります。

検討の結果、「ごめん、やっぱりほかの人に決まった」と伝えることになったとしても、「声がかかった」というだけで自信が生まれ、翌日からの働きぶりがポジティブになっていくように思うのです。

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個人と組織は対等に。カギは「情報共有」。


こんな話をしていると、ある記者さんから「最近は、本人の意思を無視した転勤も、問題視される世の中になってきましたからね」と言われました。

正直驚きました。

本人の意思を無視した転勤???

私の中では一貫して、個人と組織の間には上下関係はなく、お互いに風通しのいい関係性をつくる努力を続けるものというイメージがあります。

働く個人はいつでも「ノー」という権利を持っています。個人の意思に反する仕事を組織として頼んでおきながら、最大のアウトプットを期待することは間違っていると思うからです。

そういう前提に立ち、組織と個人のサードウェイ的なあり方を探る上で、重要になってくるのは「情報共有」だと思います。

「今、会社は何をしようとしているのか?」

「経営者はいったい何を考えているのか?」

「これから会社はどこに向かうのか?」

こういうことを経営者やマネージャーの口からいろいろな視点、さまざまな機会に話していく。

社員の立場から見ると、経営全体の状況があまり目や耳に入ってこないと、なんだか会社の中で生きていく選択肢が少ないように感じてしまいますし、自分の能力をいつ、どんな立場で発揮でき、また評価してもらえるのか不透明に感じてしまいます。

そういう時、自分が自分と組織のはざまに立たされているように感じるのではないでしょうか。

個人が組織で輝くための4つのこと


私はどうしても「経営者」の立場なのでどうしても経営者側の目線で書いてしまいましたが、会社や組織で働く「ひとりの社員」の立場に立つと、どうしても納得できないことや、"おかしい"と思うこともあって当然だと思います。

そんな方たちへ、私からお伝えしてみたい4つのことがあります。少しでも参考になったらいいなと思います。

一つは、あなた自身が組織の構成メンバーであるということ。

二つ目は、その組織はみんなでつくり上げていくものであるということ。みんながよりよい組織をつくり上げる大事な構成員だということ。

三つ目は、社長でも上司でも、情報は完全ではない。だから完璧な決断が常にできるわけではない、ということ。

最後に、だからこそ、意見を発信し、他者と交差させていく姿勢と柔軟性が何より重要なのだということ。

先日のことですが、フランスに出張する前にそのことをスタッフあてにメールで共有しました。

するとある販売スタッフから、「前々から、いつかうちの会社はパリに進出するだろうと思っていました。いよいよですね。本当に楽しみです!」とメールが返ってきたのです。何気ないメールだったけれど、私にとっては、スタッフと一緒にパリに来ている感覚がもてた、うれしい出来事でした。

私も完璧には、ほお遠いですが、試行錯誤を繰り返すことで、組織の力に個人の力を掛け合わせて、組織を動かしていくのは十分可能です。

数え切れない失敗をしてもなお、私は経営者として、不器用でもいいからみんなと「向かい合う」姿勢は絶やしたくない。そう思っています。

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。多くの方々に「ThirdWay」の思考法をお届けしたくて、本の内容をいくつかのパーツに分けて再編集して、noteで公開していきます。本やnoteの感想を「 #私のThirdWay 」というハッシュタグをつけてぜひ投稿してください。一つ一つ大切に、すべて目を通すつもりです。どうぞ、よろしくおねがいします。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)



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