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ローカルの力で、グローバルに生きる。 「異国人」の私が、アジアで見出した希望

いくつかの途上国で仕事をしてきた13年間。現地でさまざまな人たちと出会ってきました。

自分の国から出たいと言う人。母国から一歩も出たことがなく、海さえも見たことのない人…。

こうした、ローカルな世界で生き抜く人たちに囲まれ、仕事をしてきました。いつも「異国人」として新しい土地に飛び込んできました。

5カ国の途上国で現地工場の運営にこだわって、ときには成功し、中にはまだ道半ばという国もあります。

ところで、これから経済を発展させようとしている途上国の製造業は、一つの重要な「分かれ道」に、とてつもなく悩んでいます。

「Export(輸出)なのかDomestic(自国向け)なのか」という問いです。

自分たちの商品を、海外に輸出するためにつくるのか。あるいは自分の国のために生産をするのか。分かれ道に立たされています。

それぞれのメリットとデメリット


どちらがよい、悪いというわかりやすい選択肢ではありません。それぞれにメリットと、デメリットがあります。

これからぐんぐん成長することが期待される国にとって、自分の国の中のニーズはまだまだある。国内向けにつくっても売れるし、売り上げもすぐにアップします。

それに何より、せっかくモノをつくるからには、まずは自分が住んでいる国のお客様に喜ばれる商品をつくりたいという思いもあって当然かもしれません。

一方の「海外向けの生産」。スケールが大きいビジネスにつながる可能性はありますが、こちらもそんなに単純な話でありません。

どっちのチャンスとリスクをとるか


輸出向けの生産の場合、どこの国と付き合って、どんなバイヤーと付き合っているかで運命が分かれます。私は「過酷な現実」をかなりたくさん見てきたと思います。

とある工場は、日本の大企業に生産を完全に支配されていました。

日本の企業側の景気が悪くなったら一斉に数百人もが解雇されました。

また、ある国では政情不安に伴って、発注元のバイヤーが突然オーダーストップ、すぐ廃業に陥いりました。

工場は単なる生産の場ではありません。そこでの仕事を頼りに生きている現地の社員とその家族たちがいます。

人が解雇されれば、家族だけでなく地域全体が傷つく。

そんなシーンを私は数多く見てきました。

海外頼みの輸出戦略は、一気にビジネスを広げるチャンスであると同時に、大きなリスクでもあるのです。

「まずは国内」という考え方は正しいのか


「自国にまだ需要があるのなら、安定的に国内向けに生産を続けることが理想なのかもしれない」

過去を振り返ってみると私自身、こうした保護主義的な思想をもっていたこともありました。海外の大手の会社やグローバルな競争にさらされてきた現地の工場の様子を見るたびに、そう強く思ってしまうんです。

でも難しいのは、自分たちの国向けだけにつくっていると、成長の機会を逃してしまう危険性もあるということです。

自国内のニーズが十分でなかったり、自国自体が政治的にも非常に不安定だったりすると、観光に依存してしまったりする。

さらには、自国の消費者の"目"が成熟していなかったりすると、品質をアップさせるチャンスを逃してしまうなどの問題も多いのです。

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ローカルの力でグローバルに生きる


それから色んな国の工場を見てきて感じるのは、「自国向けの工場の商品」と「海外向けの商品」の品質における差はとても大きいということ。

「グローバルの市場」を相手にしていると、国内で勝負しているとき以上に、絶対に不良品を出しちゃいけないという切迫感が生まれ、納期もビジネス感覚もすべてにおいて国際市場を意識した改善が行われます。

ミャンマーのある工場では、「KAIZEN」と書かれた看板が掲げられ、マネジメントは毎日グローバルな視点で工場運営の進化を見せていました。

一方でネパールのある会社の自国向け工場を視察に行った現場では、カシミヤに似た安価なアククリルをカシミアと偽って生産し、販売をしている実態を見ました。「ネパールでは誰も調べないよ!」と笑っていますが、海外向けでは許されません。

グローバルに生きるか、国内に留まるのか。

これはとても難しい「分かれ道」ですし、進む方向によってとても異なる成長をたどることになります。

そんな中、私はいま、サードウェイ的な思考でこんな風に考えています。

「ローカルの力で、グローバルに生きる」

大事なことは、"ローカルの力"を存分に活かしているかどうか。

私が考える「現地生産」


私がこれまで見てきた輸出向け工場の中には、素材も生産設備も、またひどいときには職人さえも、海外から連れてきた人に頼り切っている場合が多くありました。場所は自国だけど、機械も、それをつくる人も、全部海外から。

中国から素材を仕入れ、中国でつくられた中古の機械で、働く人だけ、安価であるという理由で自国の人により生産が行われているケース。

もちろん地理的には、その国でつくっているのだけれど、そこで生産することの理由は、「価格」以外には見つからないときが多いんです。

そうなってくると、そこで目指す「グローバル」は「ネクストチャイナになる戦い」とほぼイコールだと私の目には映ります。

私の定義する「現地生産」は、これとは少し違います。

それは、現地の素材と、現地の職人と、現地工場をつくり、現地人によるマネージメントのもと、現地検品をして出荷すること、です。

言葉で言うのは簡単なんですが、実際に貫き通すことは難しい。でも、自社の発展の先にその国の発展がある、と思うと、これは遠回りでもやっぱり貫きたい私のポリシーなのです。

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「ベストオブカントリー」を探して


ローカルの力でグローバルに戦うと決めたとき、「ベストオブカントリー」という一つの言葉をつくりました。すべての国が、自国内のベストを尽くすという発想です。

マザーハウスがものづくりをしている国々だけを見ても、その個性はバラバラ。

例えば、バングラデシュには1億6千万人以上が住んでいます。経済成長率も7%もあり、かつての「最貧国」の姿はだんだんと見られなくなってきました。訪れるたびに街が発展している印象があります。

一方、ネパールは人口3000万にも満たない小国で、バングラデシュの人と比べて、のんびりしている人も多い印象です。

ミャンマーは、5000万人台。それぞれが違う。それぞれの国でできることは当然異なります。

オリンピックがそうであるように、ものづくりもそれぞれの代表作を「せーの」で出してみたら、一体どんなものが出るだろう?それが「ベストオブカントリー」の考え方の出発点です。

バングラデシュでは最高のジュートや革を使って。

スリランカは世界でもっとも多くの天然石が採れるからジュエリーを。

インドは世界最大の手織り人口を抱える綿の最大生産地、だからこそ素敵な服を。

たとえグローバルなマーケットを相手にしても、自国でしかつくれないオリジナリティにこだわる。そこからものづくりが始まる。

こんな風にとらえてみると、最初の問いである「海外向け」なのか「自国内向け」なのか、という二項対立はあまり意味がなくなってきます。

海外に輸出する前提でも、自国内の消費者に届ける場合でも、ベストオブカントリーの先には必ずオリジナリティがあるはず。

海外という広い舞台に立ったとしても、何も同化する必要はないのです。

それはネパールにもあるし、ミャンマーにもある。

インドにもあるし、スリランカにも、インドネシアにもある。

「ネクストチャイナ」ではなく「ベストオブカントリー」を。私はこれからも貫いていきたいと考えています。

*このエントリーは『ThirdWay 第3の道のつくり方』から一部を抜粋してnote用に編集したものです。多くの方々に「ThirdWay」の思考法をお届けしたくて、本の内容をいくつかのパーツに分けて再編集して、noteで公開していきます。本やnoteの感想を「 #私のThirdWay 」というハッシュタグをつけてぜひ投稿してください。一つ一つ大切に、すべて目を通すつもりです。どうぞ、よろしくおねがいします。

(編集協力:宮本恵理子・竹下隆一郎/ 編集:大竹朝子)

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